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2007年12月 2日 (日)

不撓不屈 (第3話) 大晦日

あれから、ちょうど1週間が経った。
今日は大晦日である。

晦日も正月も、我々に休みはない。


クリスマスイブのことがあってから、
私はポリスに対しての不信感と警戒心を拭い去ることは出来なかった。
私だけではない。
この街のポリスは普段から横柄な上に、前回のバーチェックのやり方には、
居合わせた客や従業員達も納得してはいない。


大晦日であるこの日、私はダウンタウンにある店舗(ラーメン屋)での仕事を
終えてから、フリーウェイに乗り、バーのある街へ向かった。

時間はすでに午後11時を回っているが、年越し前には
なんとか店に着けそうである。

1人でフリーウェイを運転中に、
「気が付けばいつの間にか年を越していた」
なんてのはさすがに避けたいものである。


私はバーの状況が気になり、運転しながら店に電話を入れた。

「何も問題ありませんよ!」

バーテンダーが電話の向こうで叫んでいる。
BGMの音響と回りのざわめき具合で、だいたいの混み具合は分かる。

うちのバーで年を越そうと多くの若者達が集まって来ている様子だ。
今宵もクラブスタイルでの営業である。


念のため、私は事前に店の表に見張りを立たせて、
普段より慎重に客のIDチェック(未成年者の入店を断る為)と、
銃などの危険物所持の検査を行なうように指示していた。


私は、電話口の向こうにいるバーテンダーに

「そろそろ、客に"年越し蕎麦"を振る舞ってくれ!
それと、パーティークラッカーも忘れないようにな!」

そう言って携帯電話を切った。

「年越し蕎麦」を振る舞うと言っても、「わんこそば」のように一口サイズの
蕎麦を椀に入れて、来てくれた客にカタチだけでも食べてもらうといった
程度のものである。
もう、恒例になってしまった。
そして、クラッカーを各自に手渡して、カウントダウンと共に一斉に鳴らし、
年越しを祝うのである。

私ははフリーウェイを降りて店に着く前に、周囲を巡回した。
パトロールカーが出回っていないかのパトロールである。


何も問題はない。

むしろ、1台のポリスカーにも遭遇しない。

カウントダウンを控え、またどこかでたむろっているのだろう。


私はポリス達がいつもサボっている場所を2箇所ほど知っている。

1箇所は、学校地区にある公園の駐車場だ。
この公園は夜になると人はまず来ない。
駐車場は広く、公園の奥に位置するので、ひと目につくことはない。

私は数年前まで犬を飼っていた。
ある時、犬を公園に連れて行っておもいっきり
走らせてやろうと思い、深夜2時頃に犬を車に載せて、
その公園の駐車場の奥に入っていったことがあった。

すると、暗闇の中でライトを消し、横付けされている3台のポリスカーに
遭遇してしまった。
こんな夜中にこんな場所へ入り込んでしまった自分は、
どう考えても怪しい筈である。
私は完全に職質されると覚悟した・・・

が、そのポリスカー3台は私の車を見るなり、
まるでゴキブリが散って行くかの如く、逃げて行ったのである。

何も逃げていくことはないだろうに・・・

以来、私はその駐車場の中には入っていないが、
夜になって、公園の駐車場にソロソロと入っていくポリスカーを見かける度に
「また、サボってるな・・・」などと何気に思っていたのだ。


もうひとつの場所は、場末にある24時間営業の寂れたドーナツ屋だ。
ここも人通りが少ない所にあって、あまり目立たない店である。
裏の駐車場には大抵2台のボリスカーが横付けされていて、
そのポリスカーの中で、いつも警官がドーナツを食っている。

この店はポリスに無料でドーナツを提供しているのだ。
客がほとんどいなくて、ドーナツが余ってしまう事情もあるのだろうが、
アメリカでは、治安の悪い場所などの店で、こうして警官に
無料でフードやドリンクを出したりして、
ポリスの立ち寄る店として、強盗などの犯罪を抑制しようとする場合がある。

普通のレストランでも、ポリスには優遇する習慣があるようだが、
うちの店では、たとえ警官が客として来店したとしても
特別扱いをすることはない。

そういえば、保健所が来る度に持ち帰りのフードを持たせているという
レストランオーナーもいたっけ・・・

ロスの飲食店では、保健所が定期的にやって来て、検査官の採点により
「A」「B」「C」などのランク付けがされ、それを店の外に表示しなければ
ならない法律がある。
アメリカ人の客は、このランクを以外に気にするため、客の入りに
かなり影響してくる。
しかし、これらの採点自体は検査官によってまちまちである上、
ほとんどが検査官の気分次第だと言われている。


後に我々は、このヘルスデパートメント(保健所)にも
苦しめられる羽目に遭うのである・・・・・


他の街でのことだが、知り合いの経営しているクラブバーでは、
ポリスが「バーチェック」と称して定期的に「みかじめ」を催促しに来ると
ぼやいていた。
しかも、その度にいくらかの金を握らしていると言うのだ・・・
そのクラブバーのオーナーは、その方が結果的に安くつくと言う。

「ヤクザ」でもあるまいし、警官が一般市民から
「みかじめ」を徴収するなんて・・・


これも余談だが、数年前にうちのバーによく飲みに来ていたグループがいる。
リーダーらしき奴は、ハワイアンで、その他のメンツも白人、黒人、メキシコ系と
いつも決まったメンバーで、5~6人で飲みに来るのだが、とにかくよく飲む。
金払いもいいし、暴れ出すわけでもなかったので、うちにとっても上客だった。
ひとつ、疑問だったのが、彼らはどんなに飲んで酔っ払っても、
いつも決まった時間、11時30分になるとピタリと飲むのを止め、
そそくさと帰っていくのだ。
ある時、ママの明美が彼らに尋ねた。

「あなた達、いつも決まった時間に帰るけど、これから何かあるの?」

すると、そのうちの1人が

「実は俺達、隣町のポリスなんだ」

それを耳にしたハワイアンが

「シーッ!   
・・・・・・ 実は、その通りなんだけどさ・・・ まぁ、ここだけの話にしといてよ!」

などと、軽く言っている。

明美も、

「あら、そうなの? ハッハッハッ!  ・・・まぁ、何でもいいけど、誰か迎えにでも
来るの? みんな飲んでるから運転しちゃ駄目よ! それに・・・
この町のポリスはうるさいから」

と言って、彼らがポリスだということは、端から信じてはいなかった。

だが、酔っているせいもあるのか、先ほどの1人が、

「ホラッ!」

と言って警察手帳を明美に見せた。

「あら、よく出来てるわね・・・」

と、明美がその手帳を覗き込んでいると、
他の連中も皆、手帳を出し始めた。

明美は、何か悪い冗談か、嫌がらせか、あるいは本当にポリスで、
自分達に何かを仕掛けようとしているのかなどと、頭の中がかく乱した。


実際、彼らは隣町のポリスであった。

明美が聞いた話によると、彼らが飲みに来る日は、
実は毎回パトロール前で、なんと、全員12時からのシフトであるらしかった。

「そんなことして、捕まったり、見つかったりしたらどうするの? 大問題よ!」

と、明美が問い詰めると、

「ハッハッハッ! 大丈夫さ! 隣りの町まで行けば、その日のポリスは、
ここにいる俺達しかいないんだから・・・
それに、たとえこの町のポリスに止められたって、俺達がポリスだと判れば、
見逃すよ。奴らだってパトロール前には俺達の町で一杯引っ掛けてるんだからさ」

自分達の町では顔が割れるが、管轄外の町なら飲んでいても
顔が割れることはないので、こういったことは日常茶飯事だと言う・・・

信じがたい話であるが、本当の話である。


こんなことがまかり通っているこの国はやっぱり狂っている。


それにしても、うちのバーがあるこの街のポリスは、
さぞかし退屈だろう・・・

年に数回起こる交通事故の処理と、夫婦喧嘩の通報に
懸け付ける程度で、その他にはたいした事件もない。


以前に、たまたま警察署の車庫を覗いたことがあるが、
30台近くのボリスカーが眠っていた。

なぜこんな小さな町に、これだけ多くのポリスカーと警官が必要なのか
わからない。

税金の無駄遣いである。

だから、ドーナツばかり食っている警官が増えるのだ。


さて、そろそろ時間も押し迫ってきた。

客が蕎麦を食べ終えて、残り5分で年が明けるという頃、
BGMの音楽がフェードアウトしていき、店内にある3台のモニターには、
それぞれ違うテレビのチャンネルが写し出された。

各モニターには「ラスベガス」や「ハリウッド」などの様子が中継されている。
これらの場所では路上にぎっしりと人々がいて、一斉にカウントダウンを
待ち構えている。


先程までプレイヤーを回していたDJがマイクを手に取り、
皆にカウントダウンの準備を促す。

バーテンやカクテルウエイトレス達が、忙しくシャンペンを注ぎに客をまわり、
パーティークラッカーを全員に配り終えた・・・

「10(テン)・・・9(ナイン)・・・8(エイト)・・・   」

DJの掛け声と共に、客達も一斉にカウントを始めた。

「・・・3(スリー)・・・」

「・・・2(ツー)・・・」

「・・・1(ワン)・・・」

「パーン!! パーン!! パーン!!」

「ハッピーニューイヤー!!」 「明けましておめでとう!!」


70人ほどいた客が一斉にクラッカーを放ち、奇声と共に
側にいる客同士、そして従業員らと抱き合い、シャンパンで乾杯する。

なんとか、無事に年を越すことが出来た。

店内にはヒップホップとレゲエのミュージックが流れ出し、
客達は各々に楽しみ、踊り出す。

私はそれらの光景を横目に、隣の屋根裏部屋にある
事務所に行き、いつものように経理の仕事を片付けることにした。


バーの客席には1階のレストランのスタッフ達も遊びに来ていた。
レストランのマネージャーである健二が、
プレゼント代りにと家から持って来た焼酎のボトルを片手に
事務所にいる私のところに挨拶に来た。

「社長! 明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします」

彼はそう言うと、

「隣で従業員達と飲んでますんで、後で社長も来て下さい!」

そう言い残して、事務所を出て行こうとした。

私は彼を呼び止め、

「そういえば、先週のポリスのガサ入れのこともあるし、
うちは何の問題もないが、念のために
ラストコールとグラスアップの時間は厳守するように
ママに伝えといてくれ!」

そう言って、経理の仕事に戻った。


1時45分頃になると、音楽が鳴り止んだ。


私は2階にある事務所の窓から外を見下ろした。
客達がゾロゾロと店の外に出て行くのが見える。


バーのスタッフ達は片付けを始め、看板のネオンが消えた。


店内にはバーのスタッフとDJの他に、下のレストランのスタッフが
数人と、新年の挨拶をしに来ていた他の系列店のスタッフ、
それと酒を飲んだカクテルウエイトレスの女の子を迎えに来た
友達が残っている。


私はまだ事務所の机に向かっていたのだが、
せめて残っている従業員達に声を掛けてあげようと、
机の上の書類を片付け始めた。


すると、

「ドカドカドカドカ!」

と、壁伝えに足音のような音が響いて来た。

嫌な予感がした・・・・

そして、予感は的中した。


私の事務所のドアが凄いいきよいで開けられ、
1階のレストランマネージャーである健二が血相を変えて飛び込んで来た。

「社長!! 大変です!
レイナと里美が!   レイナと里美の2人が・・・ マッポにさらわれました!」

健二は震えた声で、しかし大声でそう言った。

                 続く

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