カテゴリー「不撓不屈」の記事

2009年1月19日 (月)

不撓不屈 (・・・あれから) ゲームオーバー

その後、我々は裁判に勝訴。
充分な賠償金も得て、市やポリスからの謝罪も受け、
嫌がらせや通報もなくなり、
元の平和で安心な日々に戻った・・・・・・・・

                         


・・・・・・・などという終わり方は、私の人生にはきっとないのだろう。


結論から言おう。

我々・・・いや、私は裁判に負けた。

勝てる要素すらなかった・・・

理由は、我々の弁護士バーバラが奴らに落ちたからだ。
 

我々にとって、いよいよ有利な証拠や材料が揃い、
後は裁判の日取りを待つだけだったはずなのだが、
ポリスにとっては、どんな悪徳な手を使ってでも裁判に負けるわけには
いかなかったようだ。

奴らの最後の手は、私の弁護士を落とすことだった。

市は莫大な金額を餌にバーバラをこの裁判から引かせた。
要するに、バーバラは金に目がくらみ、奴らに買われてしまったのだ。

ポリス側からすれば、裁判に負けて賠償金を払い、
「人種差別の町(ポリス)」だというレッテルを世間にさらすくらいなら、
同じ金額を捨ててでも弁護士を抱え込み、とにかく裁判に勝つことが、
得策だと判断したに違いない。

奴らが負ければ、ポリスだけの問題ではなく、シティー、すなわち市長の
首を絞めることになるからだ。

これが法の執行を行なうポリス組織と、法律で人を助けるはずの
弁護士の姿なのだ。

まぁ、これがアメリカ流なのだろう・・・・


「是非に及ばず・・・」

私は、自分の人生において、何がどうなろうとも驚きはしない。

勿論、こうなるとは考えていなかったが、全ては想定の範囲内である。

私は「鬼」の腹の中にいるのだから・・・・


私は1人になってでも上告することを考えたが、
私から逆に訴えられることを恐れたバーバラは、
連絡どころか、即行事務所をたたんで町から出て行ってしまった。
それに、これまでの証拠品も含め、我々にとって重要な書類は、
全て彼女の手の中だ。

何万ドル(何百万円)か何十万ドル(何千万円)か知らないが、
たかだかそんな金のために「正義」までも捨ててよく逃げて行けるものだ。
もともと正義などという概念はなかったのであろうが・・・

私なりのネットワークで、彼女を探し出すことは可能であろうし、
もっと強力な弁護士を使い、とことん追い詰めて行く方法もあるが、
私はあえて、もうここまでにすることを選んだ。

これから先もポリスに対抗し、市を相手取り、
欲に走る弁護士を追い詰め・・・・・

そんなことをしていたら、あと何年・・・いや、何十年掛かることか・・・


もう、疲れた。


ゲームオーバーである。


私は、こんな「裁判ごっこ」をするために、生きているわけではない。

私は、ただの「食堂のオヤジ」である。

これ以上深追いして自分の仕事をないがしろにするわけにはいかない。

ポリスが最後に置いて行った「おみやげ」である「マルサ」の手入れも、
もうすぐだ。
そのための準備もしなければならないし、何よりも仕事に集中したい・・・


私は裁判には負けてしまったが、本来私が望んでいることは、
裁判に勝つことよりも、ただ普通に暮らし、普通に商売が出来ることである。


ポリスに対しても私が戦争を仕掛けたわけではない。

ただ、店や従業員を守るために、そして正義を貫くめには
逃げたくなかっただけだ。


この裁判を経て、目的は果たせたような気がする。

我々を苦しめていたあのポリスクルーのチーフは、
シティーにより、他の町に飛ばされた。
市としても、これ以上問題を起こされたくなかったに違いない。

奴らを有罪にすることはできなかったが、結果的に我々は
平和な日々を取り戻すことができた・・・・・と思う。


それ以上のことは、望んでいない・・・

後に残されたポリスクルーの残党達も、私達と顔を会わせたくないのか、
店に近づくこともなくなった。


今後は、こういった問題が起きないことを祈る。


オバマのように有色人種が大統領になろうが、
この国の人種間、宗教間の差別や溝はなくならない。

白人達への逆差別も多く存在する。

それは、この国に限らずである。


理想を掲げることは、大切だし、必要なことだ。


しかし、悲しいかな、そんな「それぞれにとっての正義」が
「悪」を造り上げ、争いを生む・・・・

人類は何百万年も前からそんなことを繰り返して来た。

人類から「争い」がなくなることは、
オス同士が子孫繁栄のためにメスを巡り戦う動物達や、
これまた生きるために縄張り争いをする魚や鳥、昆虫達、
そんな全ての生物から「習性」や「本能」が消えてしまうことに等しい・・・

それは、すなわち生命の終わりを意味する。


だからこそ、我々は人間として、あるいは地球人として、
私利私欲によらない「本当の正義」を心に持ち続ける必要があるのだ。

そして、それを貫き、守っていくためには、
「不撓不屈」の精神を持ち、「悪」に立ち向かって行くしか方法はない。


それが、本当の意味で「戦争のない世界」を造り上げていく道だと、
私は、そう信じている・・・・・

さあ、仕事に戻ろう・・・・・・・

                      


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2008年6月21日 (土)

不撓不屈 (第12話) 泥沼-終わりなき戦い

ポリスから、示談の提案を受ける数週間前に、
こんなことがあった。

 

バーの仕事も終わり、スタッフが帰り支度を始めたころ、
レイナがママの明美に話しかけてきた。

「ママ・・・・ちょっと話があるんですけど・・・」

「じゃあ、今日これから2人で御飯でも食べに行かない?」

明美がそう言うと、レイナは静かにうなずいた。

明美とレイナの2人は、チャイナタウンにある24時間営業の
レストランに行くことにした。
距離は少し離れているが、日本のように深夜に開いている店は
ほとんど無いため、あまりチョイスはない。
それでも、このチャイニーズレストランは、安い割に料理の味も
それほど悪くはなかったので、時々こうして仕事帰りのスタッフ達が
立ち寄る店であった。


レイナは、背丈がスラッとしていて、一見テレビで見る「スザンヌ」のような
顔立ちをしている上に、本名もレイナと言うので、客の中にはハーフと
勘違いしている人達も多い。
だが、彼女は福岡生まれの純日本人である。
普段は、とても明るい娘なのだが、その日は何やら落ち込んでいる様子で
あった。


「ママ、ご馳走様・・・」

明美は、食事がある程度済むまで、
世間話しなどをして本題を聞き出そうとはしなかった。

「食欲もあんまり無いみたいだし、いつものレイナじゃないみたい・・・
さてっと・・・アイスクリーム食べよっか! 」

明美は、アイスクリームを2つ注文した。


「ママ・・・実は私・・・・お店辞めようかなって思ってるんです」

レイナは、やっとの勇気を出して、突然そう言った。

「ふーん・・・そうなんだ・・・  ねぇ レイナ! バニラでよかった? 」

レイナはその言葉を聞いて少し拍子抜けしたようだったが、

「うん! 私・・・バニラが一番好き!」

そう言ってニッコリ笑った。


「どうして、お店を辞めようと思ってるの?」

「・・・実は・・・このあいだ恵子と大喧嘩して、それから口聞いてないの・・・」

「そのこととお店を辞めるのと、どういう関係があるの?」

「・・・・・・」

そこに中国人ウエイターが、大盛りのアイスクリームを2つ持ってきた。
そして、片言の英語で

「これ、僕からのサービスで大盛りにしといたから・・・」

そう言って、レイナを見ながらニコニコ笑っている。
どうやら、レイナのことを気に入っている様子である。
そのウエイターは、それまでマカナイの食事をしていたのか、
笑ったその歯の1本にには、ホウレン草が付いていて、
まるでお歯黒のようになっていた。

レイナはその歯を見て、噴き出して笑った。

ウエイターは、そんなレイナを見て、さらに嬉しそうに笑いながら、
戻って行った。

「・・・だって、恵子が変なこと言い出すんだもん・・・」

「変なことって、どんなこと?」

恵子というのは前にも触れたが、レイナのルームメイトである。
レイナ、恵子、そして里美の3人は同じカレッジに通っている
留学生だ。
レイナと里美の2人は、学生のかたわら、うちの店で働いているが、
恵子は、日本の親からの仕送りだけで生活している。
仕送りだけと言っても、学生の中には、月に30から50万円ほどの
仕送りがあるらしい。
どうりで、新車の高級車に乗っている学生も多いはずである。

恵子も、そんな学生の1人だった。

「恵子が・・・私に、あんな店、もう辞めなって・・・」

「だから辞めるの?」

「私達がボリスに捕まったのは、K社長が裏で何か悪いことを
しているからだって・・・・その上、ポリスやシティーからお金を
取るために、私達を利用してるって・・・・」

「レイナもそう思うの?」

「・・・・私はそうは思わないけど、もし恵子の言う通りじゃなかったら、
警察がどうして私達にあんなことをしたか、分からなくなっちゃって・・・
それに・・・・弁護士さんが言っていたけど、社長は賠償金も請求しているって・・・」

「そうよ。確かに社長は今回の告訴で賠償金を請求しているけど、
でも、それって社長に払われるものじゃないわ!」

「どういうこと?」

「社長は、お店として訴えてる他に、あなた達1人ずつのケースとしても
訴えているのよ。 私と和樹の分も入れて・・・6件分だったかな?
って言うことは、お店だけのケースで訴える金額の6倍近いお金を
弁護士に払っているはずよ」

「でも、それで裁判に勝ったら6倍の賠償金が、社長に入るって事でしょ?」

「レイナ、あなた達少し勘違いしているようね・・・
以前にポリスを告訴するって言う時に、社長が私達に言ってたこと覚えてる?」

「う~ん・・・何だっけ?」

「全財産を懸けても、お前達を守るって・・・
何があっても、お前達の濡れ衣を晴らすって言ってたでしょ?」

「ウン・・・」

「あなた達のケースっていうことは、勝てばあなた達にお金が支払われるってことよ! 
この裁判に勝っても負けても、社長が得をすることなんかないのよ」

「勝てば私達、お金もらえるの?」

「結論的には、そうかもしれないけど・・・でも、社長の目的はそこじゃないと思うわ!
だから、お金の話は私達にもあまり細かくしなかったんじゃないかな・・・」

「ふ~ん、そうなんだ・・・」

「それよりも、社長が心配してたのは、あなた達のトラウマのことよ!」

「う~ん、それは大丈夫!    あの時は怖くてどうしようもなかったし、
今でもパトカーを見るだけで、逃げたくなっちゃうけど、考えてみれば
日本にいる時もそうだったなーって・・・・」

「それなら、いいけど・・・  里美や恵子はどうなの?」

「里美はさぁ、あの子、楽観的だからいいんだけど・・・
恵子がね・・・社長やママのせいで、とんだとばっちりを受けたって言って・・・
だから、私がそんな店で働いてるのが、イヤみたい・・・」

「そうね・・・確かにあの子には迷惑かけちゃったわよね・・・」

「でもね、本当は恵子もあの日、ベロベロに酔ってたし、私を迎えに来たはず
なのに、結局私を運転手にしようとしてたんだよね」

 
2人のアイスクリームは、半分ほど食べたままで、もうすでに溶けていた。

「キャー! アイスクリームが溶けちゃった!」

レイナはそう言うと、そのアイスクリームの容器を両手で持ち、

「ズズズゥー」っと一息で飲み干した。

「私・・・・やっぱりお店辞めない!」

「そう。 よかったわ! レイナに辞められたら困るし・・・・
でもね、レイナ・・・・恵子にはやっぱり一度きちんと話したいわ!
ちょっとした誤解で、嫌な思いをしたままじゃ、私達が一緒に戦っている
意味がないもの・・・・」

「ウン、 分かった。 私からも伝えとく」

次の日、明美はレイナと話したことを、私に報告してくれた。

明美の言うように、私は彼女達1人ひとりのケースを起訴するために、
数倍もの弁護士費用を負担した。
裁判に勝てば、彼女達の逮捕歴を消すことも出来るし、
賠償金として、いくらかのお金も彼女達に払うことが出来る。
その場合も、弁護士は彼女達が受け取れる金額の約3分の1を
追加の成功報酬として取ることになっているが、
それによって私がお金を手にすることは一切ない。
仮に裁判に勝って、店に対しての賠償金が支払われたとしても、
彼女達5人分の弁護士費用には、到底及ばないだろう。

この裁判に掛ける金額は莫大でも、これは単なる「コスト」に過ぎないと
私は割り切っている。
ギャンブルをしているつもりはない。

私の目的は、ポリスに謝罪をさせて、彼女達の逮捕歴だけではなく、
精神的な気持も、クリアーにしてあげることだ。

そのことは、彼女達にも伝えてあったし、彼女達自身も
それを望んでいたはずだった。

だから、恵子のように、誤解などによって我々身内の中で、
不信感や仲間割れなどのストレスを感じさせることは、本望ではない。

確かにお金の詳細に関しては、彼女達は知らないはずである。
裁判に掛かる費用などの話しをして、余計な心配をかけたくなかったからだが、
少し、説明不足だったのかもしれない。

私は、明美に頼み、レイナ、里美、恵子、和樹を集めてもらうことにした。

私には、心配していたことがあった。
それは、何度か過去に、目の当たりにしてきた「冤罪」というものが
引きずっていく様々な問題だ。
こういった事件に関する裁判では、とにかく時間が掛かる為、
第三者だけでなく、当事者本人の気持に、ブレが生じてくる。
また、それが原因で人間関係が泥沼化していくこともあるからだ。
どういうことかと言うと、相手が警察などの公的機関の場合は特に

「真実はどうだったんだろう」
「もしかしたら、本当は当事者(自分達)が悪かったんではないだろうか」
「よく考えたら、公的機関(警察)が間違ったことをする筈はない」
「自分達がこんな目にあったのは、誰々のせいだ」

などという気持に陥る場合がある。
まして、これらの事件が警察側の見解としてメディアに露出した場合は、
非常に危険な状況になってしまう。
メディアというのは、実は誰も真実を知らない。
そのため、思い込みや決め付けで犯人像が作りあげられ、
その犯人像だけが独り歩きして、一般的に広められる。
こうなると、当事者やその関係者、家族さえも不安になる時がある。

「新聞やテレビが、嘘を付くはずがない・・・」

などと感じ始めてしまう・・・・

そして、それを読んだり聞いたりした周りの人達の視線は非常に冷たい。
身近な理解者がいない冤罪ほど孤独なものはない。

だからこそ、こういった事件は、冤罪を被らされた関係者が
一致団結しなければ、到底乗り越えられるものではないのだ。


私は、明美、レイナ、里美、恵子、和樹の5人を事務所に集めて、
ミーティングを行なうことにした。

K・・・「今日みんなに集まってもらったのは、我々の事情聴取も
    ほぼ終わったので、私の知っている限りの現状報告を
    したかったからだ。 現在、相手側の取調べが続いている状況で、
    特別な進展はないが、どうやら相手側は往生際が悪いらしい」

恵子・・・「Kさん、本当のところはどうなんですか? ハッキリ言って私
      迷惑してるんですけど・・・」

K・・・「そうだな。 恵子にはとんだ巻き添えを食わしちまったからな・・・
    だからこそ、俺達はどうしてもこの裁判に勝つ必要があるんだ」

恵子・・・「私が言っているのは、そういうことじゃないんです。
      Kさんやママが、何をしたか知りませんけど、なんで私が、
      このお店のために協力しなきゃいけないんですか?」
 
里美・・・「恵子、なに言ってんの! 社長は私達のために警察を訴えたんだよ」

恵子・・・「結局は、お金のためじゃないんですか? 
      私、間違ったこと大嫌いだし、嘘も付きたくないんです。
      事情聴取で宣誓までして、どうして私が口裏を合わせなきゃ
      ならないんですか?」

明美・・・「口裏を合わせるって、どういうこと?」

恵子・・・「前にママが私に言いましたよね。 
      不利になることは言わない方がいいって・・・
      私がまだ、ハタチ(未成年)だった時もお酒飲ませてたし、店内でタバコを
      吸わせてた客もいたの知ってるけど、そのことは言わなかったわ!
      客の中にはギャングメンバーもいるみたいだし、飲酒運転してる人達だって
      実際にいるけど、私、店のために黙っててあげたの。
      でも、それが凄いギルティー(罪)に感じて、ストレスになってるわ」

和樹・・・「恵子、お前、言ってることが矛盾してるぞ! 未成年で酒を飲んでたのは
      お前だろ? それにお前だってタバコ吸ってたじゃねーか!
      前に、酔っ払って運転だってしてただろ」

恵子・・・「私が犯罪者みたいに言わないでよ! 法律では、それらを見過ごした
      店の方だって悪いんだから・・・」

明美・・・「恵子ちゃん! 確かに私も完璧に法を犯していないとは、言えないわ!
      それに、不利になるとことを言わない方がいいとも言った。 
      でも、それは口裏を合わせるとか、嘘を強要してるわけじゃないのよ。
      恵子ちゃんが事情聴取で聞かれたことを、どう答えるのも、
      あなたの自由なの。 私が言いたかったのは、私達が不利な証言をして、
      裁判に負けてしまったら、全ての出来事に対してポリスが正義で、
      私達が犯罪人になってしまうっていうことが言いたかっただけなの」

和樹・・・「そうだよ! 俺達が裁判に負けたら、やってもいないことまで、
      やったってことにされちまうんだぞ!」

恵子・・・「結局、この店が賠償金を取るために、私達が利用されているだけよ!」

レイナ・・・「止めなよ! 恵子!」

K・・・「なぁ、みんな・・・ひとつハッキリとしときたいことがあるんだ。
    俺がポリスを起訴したのは、正義のためだ。 そして、みんなを守るためだ。
    ましてや、金の為になんて、考えたこともない。
    今だから言うが、俺はみんなのケースで1人に付き、○千ドル支払った。
    トータルしたら○万ドルになる。裁判に入れば、それ以上に掛かるだろう。
    いずれにしても、君達には金銭的にも精神的にも、負担をかけるつもりはない。
    だから、ここでもう一度みんなに確認したいことがある。
    この事件に関して、ほじくり出して欲しくない人間がいるのなら、
    そう言って欲しい。裁判に臨むのも、降りるのも君達の自由なんだ。
    ただ、俺がどうしても避けたいのは、奴らポリスの悪によって、君達同士の
    関係が悪くなったり、そのことが原因で余計なストレスを負うことなんだ。

和樹・・・「社長! 俺、金なんてどうでもいいっす。 あっ! いえ、裁判費用を
      払ってもらっておいてこう言うのも何なんですけど・・・・
      とにかく俺も、正義のために戦いたいっす」

里美・・・「私も・・・だいたい、そんなにお金掛かってるなんて知らなかったし・・・」

レイナ・・・「私も警察のしたこと許せないし、降りない・・・」

恵子・・・「ハッキリ言って私・・・あの黒人の弁護士だって、信用できないんだよね・・・」

レイナ・・・「また、その話? それはいいじゃん」

明美・・・「信用できないって、どうしてかしら?」

恵子・・・「あの人も、結局はお金目当だと思うから・・・
      それに、私の事情聴取の時も全然頼りにならなかったし・・・」

明美・・・「弁護士といっても、ビジネスよ! 報酬が目的でも仕方ないわ!」

恵子・・・「私・・・・みんなの言ってる正義っていうのがよく分からない。
      警察だって、正義でやってたんじゃないかな・・・」

和樹・・・「お前何なんだよ! ポリスが正しいと思うんだったら、
      お前だけ告訴取りやめろよ!」

恵子・・・「そうね。 私ちょっと正義についてよく考えてみるわ!」

K・・・「じゃぁ、よく考えた上で、もし、告訴を取り止めたい時はいつでも言ってくれ!」

そして、私は彼女達にこれまでの経過をもう一度まとめて説明した。

こうしたやり取りがあった数週間後に、ポリスから示談の提案があったのだ。

我々は、その内容を確認するために、バーバラのオフィスに再び集結した。


バーバラ・・・「どうやら、ポリス側はこの件を本裁判にまで、持ち込みたく
        ないようよ!  どっちにしても本裁判まで持っていっても、
        まだ数ヶ月、いや、数年かかるかもしれないし、
        個人のケースに関しては、示談に応じた方が、得策かもしれないわね」

恵子・・・「示談って、どういうことですか?  私達がお金を貰えるんですか?」

バーバラ・・・「そうよ」

恵子・・・「ふ~ん・・・ それっていくらですか?」

バーバラ・・・「それがね・・・・・1人に付き2千ドルだって言うの・・・」

恵子・・・「冗談じゃないわ!」


その場にいた、レイナと里美、和樹、明美は顔を見合わせた。
あれほど、お金のことを否定していた恵子が、示談金額に対して、
異常な食い付きを見せたからだ。


恵子・・・「レイナ、聞いた? 私達がされたことがたったの2千ドルだなんて、
      ふざけてるわ!」

レイナ・・・「でも、お金が目的じゃないじゃん!」

恵子・・・「バーバラさん! その金額じゃ私達納得できないわ!」

和樹・・・「って言うかお前・・・俺達、まだ示談で済ますかどうかも決めてないじゃん」


K・・・「バーバラ、奴らが示談に持ち込みたいということは、
    非を認めたということかなー?」

バーバラ・・・「そういうことになるわね」

K・・・・「と言うことは、謝罪も取れるということだよね?」

バーバラ・・・「・・・・それがね・・・・謝罪はしないと言ってるの・・・」

 
個人のケースに対して、示談金で解決したとしても、謝罪をしないというのは
到底、納得できるものではなかった。
私は、示談金額の大小に関わらず、この提案をすんなり受け入れることは、
危険なことに感じた。
何としても謝罪と共に、我々に対して今後このような事件を引き起こさない
という約束が欲しかった。

しかし、私の中には迷いもあった・・・

彼女達にとっては、どういう結果が一番いいのだろうか・・・・
このまま、ずるずると裁判を長引かせ、彼女達を泥沼に引き込ませることが、
よい方法だとも思えなかったのだ。

私は、彼女達のケースに関しては、彼女達自身の判断に任せることにした。
ただ、この提示額が子供だましの金額であることは、彼女達にも理解できた
ようである。

いずれにせよ、ポリス側が提示した金額では、示談に応じる意思がないことを、
バーバラに伝えた。
バーバラも同意見だった。
それには当然、バーバラ自身の報酬に大きく関係してくることがあったのには
違いないが・・・・


ここからまた、アメリカらしい値段交渉が幾度となく続けられた。

結局、彼女達は示談に応じることを選択したのだが、後はそれが「いくら」
なのかが問題となった。

それからは、相手側が値段交渉だけのために用意した新たな弁護士達と
交渉することになる。
ただ、我々とその弁護士のあいだを取り持つ中立的な第三者の人間が存在した。
面白いことに、この第三者というのが、ある機関の人間とかではなく、
電気屋とか、どこかの会社役員とか、いわゆる一般人なのだ。
そこにギャラが発生するのかは定かではない。
我々の交渉請負人として紹介されたのは、ガス会社の部長という
肩書きの人物であった。

なんと、今回彼女達が呼ばれた場所は、そのガス会社の一室であった。
その部屋で、まるで「競(セリ)」のような交渉が続く。

まったくもって、意味の分からないシステムだ。


アメリカの車ディーラーで新車を購入した経験のある人なら、想像できると
思うが、客はプライスの交渉相手(ディーラーのマネージャー)とは、
直接顔を合わせない、といったマニュアルが存在する。
セールスマンには元々、最低ラインのプライスが存在しているにも関わらず、
自分では、値段決定の権限がないことを理由に、客の味方として、
自分の上司(マネージャー)との値段交渉に行ったり来たりする「フリ」をする。
たとえ客に粘られたとしても、セールスマンが必死になって、客のために
値段交渉に貢献したという演出をする仕組みなのだ。
この半日にも及ぶ自作自演によって、心理的に客はまんまと
納得させられ、高い車を買っていくのだ。

示談金の値段交渉も、そういった心理作戦に近いと言える。
相手側の弁護士達は隣りの部屋に待機していて、そのガス会社の部長
という男が、彼女達のいる部屋とのあいだを行ったり来たりするのだ。


ここで、本領を発揮(本性を現した)のが、恵子であった。
彼女は、大学院を目指しているだけあって、とても頭の良い娘だ。
後から、バーバラに聞いた話によると、先の事情聴取の際にも、
「言葉のゲーム」を一番駆使していたのは、実は恵子であったと言う。
事情聴取では、勝手に意見を述べることは許されていなかったが、
質問することは、認められる。
恵子は、相手の弁護士からの質問に対して、「言葉の揚げ足」を狙い、
逆に、「なぞなぞ」のような質問を相手側に仕掛けていたらしい。
以外だったのは、相手の弁護士がそれを嫌がるどころか、
まるで、2人でゲームをしているような感覚だったと、バーバラは振り返る。

私は、恵子の言っていることの正否は別として、彼女の言葉の
どこまでが本心で、どんな考えを潜ましているのかが、よく理解し難い
部分があることは、否定できない。


交渉人・・・「それでは、1人に付き3千ドルだったら、どうですか?」

里美・・・「・・・・」

和樹・・・「・・・・」

レイナ・・・「よくわかんない・・・」

恵子・・・「私の答えは"NO"よ!」

明美・・・「あのぉ・・・その前にポリス側からの謝罪はないんですか?」

バーバラ・・・「明美、やっぱり、今の段階ではそれは無いそうよ!
        多分、謝罪すれば、その後に控えている店との裁判において、
        彼らが不利になるからだと思うわ!」

交渉人・・・「私はあくまでも中立的な立場で、値段の交渉だけを任されているので、
        正直言って、その辺のところはよく分からないんだ・・・」

明美・・・「バーバラさん、私達も本当のところは、まだ迷っているんです。
      謝罪もなければ、相場も分からない状態だし・・・
      相手からすれば、結局いくら払えばチャラにするんだってことですよね・・・・」

交渉人・・・「えーっと、貴方が明美さんですね」

明美・・・「はい」

交渉人・・・「貴方に対する示談金は、警官が突き飛ばして怪我を負わしたという
        内容なので、医療費も含めて4千ドルの提示があります」

恵子・・・「ちょっと待ってよ! 彼女(ママ)は留置所に入れられたわけでも
      ないのに、どうして私達の方が少ないの?
      だいたい、本当に怪我してたんですか?」

バーバラ・・・「多少なりとも、痛みが残っているようだったので、
         彼女には病院に行って、検査を受けてもらったのよ!
         大した怪我じゃなくて良かったけど、その分の違いはあっても   
         不思議なことではないわ」

恵子・・・「精神的には、私の方が傷付いてるわ! 
      だいたい、ママはお店で働いてた人間だから
      そうなったのかもしれないけど、私は何にも関係ないのに、
      こんな目に会ったんだから・・・」

和樹・・・「恵子、今ここでそんなこと言ったってしょうがねーじゃん!」

交渉人・・・「恵子さんは3千ドルの示談金に納得しないということですが、
        いくらなら納得するんでかすか?」

恵子・・・「私、事件のあったあの晩のこともそうだけど、取調べのストレスとかで
      眠れない日もあったし、お陰で学校の単位も落としちゃったから、
      その分の授業代とか入れて・・・・・1万ドル!  
      それでも本当は少ないくらいけど、お金が私の目的じゃないから、
      1万ドルだったら、応じてもいいわ!」

交渉人・・・「皆さんはどうですか?」

明美・・・「謝罪があれば、何とか考える余地もあるんだけど・・・
      今の段階では、誠意が見られない気もするわね・・・」

和樹・・・「俺も、相手の謝罪次第だな」

里美・・・「私も同じ・・・」

レイナ・・・「私も・・・・」

交渉人・・・「それでは、また少し待っていてください。交渉してきますから・・・」


交渉人は、そう言って隣の部屋で待つ、相手側の弁護士のところへ行った。

40分ほどして、交渉人が帰ってきた。

交渉人・・・「残念だが、まず1万ドルの示談金はあり得ないという答えでした。
        シティーは現在、財政難でバジェット(予算)がないこともあり、
        1人に付き、3千5百ドル、明美さんは4千5百ドルでどうですか?
        ということです。 それから・・・謝罪については、別の問題なので、
        今は答えられないそうです」

結局、この日も交渉はまとまらず、次回に繰り越されることになった。


彼女達には、あえて言うことを控えたが、私が考えている示談金額は、
今、交渉している額とは、桁が違うものだと想像していた。
家具やテレビの値引き交渉じゃあるまいし、あんな金額で踊らされている
現状が、悲しく思えた。

そんな交渉が何度も行なわれ、示談金額は当初の3倍近くになっていた。
だが、相手側はそれ以上には応じない強行姿勢であったため、
恵子以外の全員は、逮捕歴を抹消することを条件に示談に応じた。
恵子も粘りに粘ったが、最終的に、これ以上変化がないと判断してか、
最終的にそれに応じた。
その間にも、彼女達同士でイザコザがあったようだが、
現実にお金を手にして、なんとか納得してもらうことが出来た。


私が、彼女達にしてあげられたことは、その程度だ。

どんなカタチで決着が付こうとも、事件が起きなかったこと以上の
ことは、何一つない。

これらの権力によって起こされる社会の悪と陰謀、事件は悲しいものだ。
だが、それ以上に、これらの事件によって発生する精神的な苦痛、
人間関係の悪化、そして弱さ・・・
何よりも、そのことに対して何も出来ない己の力の無さを知ることこそ、
私にとって最大の悲しみである。


本当の決着までには、何年掛かるか分からない・・・

それでも私は、戦い続けなければならない・・・


あのクリスマスイブの日から数えると、もう2年半の月日が過ぎようとしている。


今月には、うちのグループ全店に対して「マルサ(国税局の監査)」が
入るという通達を、先日受けた。

最悪のシナリオである・・・
それが、ポリスやシティーによる作戦のひとつかどうかは、判明していない。

私に出来ることは、一つひとつの壁を乗り越えていくことしかない。

戦いに終わりは見えない・・・・

終わりがあるのかさえも分からない。

いったい・・・ 

私は何と戦っているのだろうか・・・・・・



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2008年6月 9日 (月)

不撓不屈 (第11話) 希望

裁判とひとことで言っても、それは長い道のりである。
まして、相手は「ポリス」という権力組織なのだ。

後にも触れるが、私の目的は賠償金などではなく、
我々がされたことに対する謝罪と、従業員達を守るためである。

それと同時に、ポリスパワーという権力と、人種的な偏見によって
この国の中で日常的に行なわれているこれらの差別的な事や侮辱を、
このまま見過ごしてはならないと感じたからだ。


私はビジネスをする以上、利益を追うだけではなく、周りの人達を含め、
地域社会にどれだけ貢献できるかということも、大切な役目だと考えている。

この町で商売を始めてから15年経つが、私は市に対してもきちんと
税金を払い、市の催しやイベントにも寄付や協力をし、
多少なりとも貢献してきたつもりだ。
自分の商売をしている町に対して、還元しようという考えはあっても、
住民も含め、市に迷惑をかけてきた覚えはない。

だが、所詮ここはアメリカである・・・

しかも、この町は特別だ。
私が日本人であることによって、彼らが戦争を仕掛けて来るなら、
受けて立つしか、私の選択はない。

何の罪も犯していないのに無理やりしょっ引かれて
屈辱を味わされた「レイナ」「里美」「恵子」の3人の娘達。

真面目に更生しようとして働いているのに、
言いがかりを付けられ、留置所に放り込まれたバーテンの「和樹」

無抵抗にも関わらず、いきなり突き飛ばされ、
罵声を浴びせられた「明美」

そして、嫌がらせや脅迫、着け回された多くの人間達。

度重なる妨害や圧力により、
営業停止や信用を失ってしまった店を守るため、
そして、それによって迷惑をかけてしまった全ての人達のために
私は負けるわけにはいかなかった。


私は弁護士と相談して、レイナ、里美、恵子の3人、そして和樹、明美の2人、
損害を被った私の店に対するそれぞれの事件を全て個別に告訴することにした。

当然、別々の件として告訴するということは、
弁護士料もそれぞれにかかり、膨大なコストになってしまう。

しかし、私はこの事件を「私の店の一事件」として片付けたくはなかった。
私の店で働いていたというだけで、彼女達に迷惑をかけてしまったことに、
きちんと1人ずつ、私なりの誠意と責任を取りたかったからだ。

彼女達にもその意向を伝え、彼女達自身の気持や意思を確認した。
彼女達は私に同意し、共に裁判を乗り切ろうと決意した。

本裁判に入るまでに、我々は1人ずつ別に事情聴取を受けることになった。
訴えているのは我々の方で、被告はボリス側なので、
当然、ポリスの連中も1人ずつ取調べを受ける。

私が名指しで告訴した相手は、まずあのチーフとグリズリーの2人、
バーチェックを指示したポリスの責任者である警察署長、
それに、これらの組織の元締めである市(シィティー)である。
明美を突き飛ばした黒人警官に関しては、ただの駒に過ぎないと思い、
名指しでは告訴をしなかった。


さて、事情聴取の内容だが、これはまだ私の店に対する裁判が、
完結していないので、あまり詳細に書くことは控えるが、
私を含めて、6人がこの事情聴取を受けた。

取調べは、1ヶ月に1人というペースだった。
レイナ、里美、恵子、和樹の4人は、それぞれ1日だけの調書で
終了することが出来たが、明美と私は延べ何日間かを要した。
1回の取調べが終わってから次の調書までの期間が長いため、
結局、我々の事情聴取だけで半年を要した。

我々の取調べを行なったのは、相手方の弁護士軍団で、
逆に相手側を取り調べるのは、バーバラを含む我々側の弁護団である。
この双方の取調べを、中立的な機関や組織が記録と確認を取り、
いざ、本裁判に臨むわけだ。


我々の場合、相手側に指定されたオフィスの一部屋で、
事情聴取は行なわれた。
1日に行なわれる調書は、ひとりのみである。
初日は、レイナが受けることになっていた。

部屋にはポリス側が用意した弁護士2人に、中立的な書記が1人いる。
大きなテーブルに対辺して、当事者は座らされ、
そこで1人ずつ調書が取られるわけだ。
こちら側の弁護士も1人だけ同席が許されているが、
一切の返答をすることは、認められていない。
相手の弁護士の質問が、あまりにも誘導的だったり、差別的だったり、
あるいは本題とかけ離れてしまったと判断した場合のみ、
こちらの弁護士が、異議申し立てを出来ることになっている。
部屋にはあらかじめテープレコーダーが準備してあり、
ビデオカメラが当事者の顔に向けられる。

前にも書いたが、相手側の弁護団のリーダーは、
先祖に日本人がいるというだけのアメリカ人である。
名前(名字)だけでも日系であれば、人種差別的な調書は無かったと、
本裁判において主張できるための対策であろう。

調書は朝の9時から行なわれ、昼食時に1時間の休憩があるのみで、
人によっては、夜の9時まで延々と続く。
ともすると、我々が犯罪を犯して、訴えられた挙句に取調べを受けているような
錯覚にも襲われる。

私は、このような取調べには免疫があるが、うちの娘達がこの状況に
果たして対処していけるかが心配であった。
取調べにおいては、たった「ひと言」のうかつな返答が命取りになる。
もちろん、嘘をついてはいけない。
しかし、中立的な立場の人間が質問をするのではなく、相手側が少しでも
有利にはたらくように、誘導尋問などによって我々を不利な状況に
持っていく事が、この取調べの目的である以上、
相手のペースにはまってしまったら、彼らの思う壷なのだ。


これは、一種の「言葉のゲーム」である。
勿論、ゲームと言うのは不謹慎であることは承知だが、
少なくとも、弁護士という職種は、元々これらの言葉のゲームを楽しめる
人間が選ぶ職業なのかもしれない。

この調書は全て英語で進められる。
店の彼女達は、英語を流暢に話すが、ひと言の聞き違いも許されない
状況のため、全ての取調べに通訳を雇うことを相手側に認めさせた。

まず、宣誓をさせられた後、本人の経歴や英語の理解度、法律の理解度、
店や仕事の状況などを問われた後、本題に入るわけだが、
通訳を通していることもあり、とにかく進行が遅い。

これらの通訳者は、分かりやすく伝えることが目的ではなく、
一言一句を正確に訳さなければならない義務がある。
質問や答えを言い間違えて、それを言い直した場合も、
通訳はその通りにいい間違えて、言い直すことが条件となる。
たとえ質問者の英語が理解できても、通訳が言い終えるまでは、
答えてはならないし、「Yes」「No」などの簡単な単語でも、
通訳を通してしか答えることは出来ない。

先にも書いたように、質問者の質問に対して、途中で自分の弁護士が
異議を唱えることもあるが、自分の弁護士が当事者の質問を受けたり、
アドバイスをすることは禁止されている。
したがって、自分の弁護士の異議を聞いたら、その意味を自分で考え、
答えを導き出す事が必要とされる。


質問者・・・「貴方は4月の終わり頃、店の近くの駐車場沿いにパトカー数台が
       待機していたのを見たと言っていますが、
       まず、4月の終わり頃と言うのは、4月の何日ですか?」

レイナ・・・「よく覚えていません」

質問者・・・「それは、4月の20日以降ですか? それとも25日以降ですか?」

レイナ・・・「おそらく25日以降だったと思います」

質問者・・・「それは、26日以降の25日以降ですか?」

レイナ・・・「ちょっと、分かりません」

質問者・・・「時間は何時でしたか?」

レイナ・・・「夜の11時過ぎだったと思います」

質問者・・・「11時何分でしたか?」

レイナ・・・「覚えていません」

質問者・・・「それは、11時15分までの11時過ぎですか? 
       それとも、11時30分までの11時過ぎですか?」

レイナ・・・「11時15分までのことだったと思います」

質問者・・・「それでは、11時5分までの11時過ぎでしたか?
       それとも、11時10分までの11時過ぎでしたか?」

レイナ・・・「分かりません」

質問者・・・「貴方の記憶では、4月の25日から30日までの、夜11時から
       11時15分までの出来事ということですね」

レイナ・・・「はい」

質問者・・・「店の近くの駐車場と言うのは、住所を知っていますか?」

レイナ・・・「いえ、正確な住所は分かりません」

質問者・・・「その住所は、○○市○○番地の○番ですか?」

バーバラ・・・「異議あり! 住所が分からないと答えているのに、
        今の質問は矛盾しています」

レイナ・・・「・・・住所は知りません」

質問者・・・「それでは、その駐車場は、店に対して東西南北のどちらの
       方角にある駐車場ですか?」

レイナ・・・「北側になると思います」

質問者・・・「貴方はそこで何をしていましたか?」

レイナ・・・「車に乗って、交差点の信号待ちをしていました」

質問者・・・「誰が運転していましたか?」

レイナ・・・「ボーイフレンドです」

質問者・・・「そのボーイフレンドと言うのは、貴方と恋愛関係にある
       ボーイフレンドということですか?」

バーバラ・・・「異議あり! 今の質問は、事件とは関係ないばかりでなく、
        プライベートなことです」

レイナ・・・「・・・・・・」

質問者・・・「さあ・・・答えてください」

レイナ・・・「・・・・・はい、そうです・・・」

質問者・・・「そのボーイフレンドは、飲酒していましたか?」

レイナ・・・「いいえ」

質問者・・・「それでは、貴方は飲酒していましたか?」

レイナ・・・「いいえ」

質問者・・・「その時、貴方達はどこから来て、どこに向かう途中でしたか?」

バーバラ・・・「異議あり! 今の質問も、プライベートなことです」

レイナ・・・「・・・・・・家に帰る途中でした」

質問者・・・「それでは、少し質問の仕方を変えましょう。
       貴方達は、ミスターK の店からの帰りでしたか?」

レイナ・・・「いいえ」

質問者・・・「貴方は、ミスターK の店で働いているのではないのですか?」

レイナ・・・「働いていますが、その日はたまたま私の休みの日でした」

質問者・・・「どちら方面から、どちら方面に向かう途中でしたか?」

レイナ・・・「・・・南方面から北方面に向かう途中でした」

質問者・・・「そこで貴方は、数台のパトカーが駐車場沿いにあるのを
       見たと言っていますが、それがパトカーだったということが
       なぜ判ったのですか?」

レイナ・・・「・・・・・・それは・・・白と黒のツートンでしたから・・・・」
     
質問者・・・「見間違いということはないですか?」

レイナ・・・「いえ、確かにパトカーでした」

質問者・・・「では、その数台の車のサイドには、何かマークのようなものが
       書かれていましたか?」

レイナ・・・「ポリスと書かれていたと思います」

質問者・・・「シティーの名前も書いてありましたか?」

レイナ・・・「・・・そこまでは、あまり覚えていません」

質問者・・・「と言うことは、その数台の白黒の車は、シティーのパトカーでは、
       なかったかもしれないということですね?」

レイナ・・・「・・・・・・」

バーバラ・・・「異議あり! 今の質問は明らかに誘導尋問であり、
        通常、そこまでの細かい記憶はないと思います」

レイナ・・・「・・・車に書かれていたシティーの名前までは、見ていませんが、
      間違いなく、あれはパトカーでした!」

質問者・・・「それでは、あなたの見た数台の車は、パトカーらしかったが、
       シティーのパトカーかどうかは確認していなかったということですね?」

レイナ・・・「・・・・・・は・・・はぃ・・・・」

質問者・・・「貴方は、そのパトカーらしき車が、数台あったと言っていますが、
       それは何台でしたか?」

レイナ・・・「4台以上だったと思います」

質問者・・・「それは、6台以下の4台以上ですか? それとも8台以下の
       4台以上ですか?」

レイナ・・・「えっ!? すみません、もう一度お願いします」

質問者・・・「書記官! 今の質問をもう一度繰り返してください」

書記官・・・「はい。 それは6台以下の4台以上ですか? それとも8台以下の
       4台以上ですか?」

レイナ・・・「6台以下の4台以上です」

質問者・・・「5台以下ですか?」

レイナ・・・「分かりません」

質問者・・・「それでは、そのパトカーらしき車は、4台から6台あったという
       事ですね?」

レイナ・・・「はい」

質問者・・・「貴方は、その4台から6台のパトカーにみえた車が、
       待機していたと言っていますが、どうして貴方はそれが
       <待機>と思ったのですか?」

レイナ・・・「・・・ライトも消えていて・・・中に警察官が乗っていたので・・・」

質問者・・・「貴方は、どうしてそれらの車の中にいる人間が警察官だと
       判ったのですか?」

レイナ・・・「・・・それは・・・パトカーの中に乗っていたからです」

質問者・・・「その車の中の人間は、どんな服を着ていましたか?」

レイナ・・・「警察の・・・・・・いえ・・・・よく見えませんでした」

質問者・・・「それでは、警察官ではなかったかもしれないということですね?」

レイナ・・・「・・・・・・・」

バーバラ・・・「異議あり! 質問が重複してます」

レイナ・・・「・・・パトカーに乗っていたので、警官だと思いました」

質問者・・・「そのパトカーと思われる車の中には、何人の人がいましたか?」

レイナ・・・「・・・わかりません」

質問者・・・「貴方は、1台の車に最低1人の人間が乗っていたことは、
       確認できたが、他の車に人が乗っていたという確証は
       ないわけですね?」

レイナ・・・「・・・何人なのかは、確かではありませんでしたが、
      それぞれの車に人が乗っていたのは、見えました」

質問者・・・「貴方は、信号待ちをしているわずかな時間に、
       それら全てを見たと言うのですね?」・・・・・・


・・・・・ このように、たったひとつの事柄で「なぞなぞ」のような気が遠くなる
取調べが、丸1日続けられる。
しかも、これらは全て通訳を通して行われるため、通常の倍の時間が
かかることになる。

人間の記憶などというものは、以外にいい加減なものだ。
まして、1年以上も過去のこととなれば、よっぽど一つ一つを記録してなければ、
そう簡単に思い出せるものではない。

私の調書の時もそうであったが、特に日付や時間的なことに関しては、
他の似たような出来事と交差したりし、混乱してしまって、
まったく思い出せなかったことも多くあった。
だが、それらは別に記憶力が弱いわけではなく、いたって通常のことらしい。
むしろ、正確に答え過ぎれば、その方が不自然で計画的だとみなされて
しまうようである。
憶測で答えてしまうことの方がよっぽど危険なのだ。
わからないことは「わからない」とハッキリ言うことが肝心だ。
もし、後になってつじつまが合わないことになれば、虚述をしたことになって
しまうからだ。

1日の取り調べも、終わりのころになると、当事者だけではなく、
相手の弁護士をはじめ、書記官、通訳共にヘトヘトになって、頭が混乱して来る。
日本の取調べもそうだが、実はここに落とし穴がある。
疲れて、頭がもうろうとしてくると、心理的に面倒となって
「もう、それでいいや」という気持になってしまうものだ。
これは、実は取調べをする側からすれば、ひとつのテクニックとも言える。


過去(少年時代)に私は日本で、警察の取調べを何度か受けたことがあるが、
日本の場合、被告側の取調べは、いたって形式的であった。
ほとんどの場合、すでに検察や捜査機関が造ったストーリーが出来ていて、
「これで間違いはないな?」という流れで、調書は進む。
米国と多少違うのは、日本の場合、「自白」が一番の証拠だという考えから、
自白獲得のために、あらゆる心理的な誘導が行なわれる。

よく刑事物のテレビドラマに出てくるような、あんな感じだ。
強面の刑事が椅子を蹴りながら大声で威嚇したかと思えば、
白髪交じりの優しそうな刑事が、静かに親や家族の話を持ち出して来る。
ドラマと違うのは、「カツ丼」の出前がなかったぐらいだ。

日本の捜査機関にとっては、確実性よりも事件の早期解決が
一番の目的であり、また、何としてでも犯人や犯行を見つけ出して
逮捕につなげなければならないという風潮があったので、
犯人を無理やりにでも造り上げる「冤罪」も多かった。


米国の場合も、もちろん自白は重要要素なのだが、
歴史的にも「嘘つき」が多い国民性のせいか、これにDNA鑑定などの
科学捜査や物的証拠という「裏づけ」が絶対必要となる。

一見、これは確実で合理的だが、恐ろしいのは「裏づけ」という
証拠そのものが捏造される可能性を含んでいることなのだ。
自白がなくとも、捏造された証拠ひとつで有罪になる。
まさしく、これも「冤罪」なのだ。

これは、逆の意味で言うと、
明らかに人を殺したとしても、「死体」という証拠が無ければ、
殺人罪には問われないということが起こり得る・・・
完璧に死体を消滅してしまえば「OK」ということだ。


私たちの事件の場合、相手は法の執行官であるポリス(警察)組織である。
我々が何か犯罪を犯したという物的証拠を、奴らが故意に造り上げることは
可能でも、我々が元々やっていないこと対して、やっていない証拠を
我々の力で証明することは難しい。
さらにポリスは、そのパワー(権力)によって、以前にも消えて無くなってしまった
裁判のように、違法な捜査をしたという事実さえも内部で隠滅することが
可能なのだ。


案の定、奴らは自分達の取調べににおいて、全ての事実を否定している。
それどころか、まったくのデタラメを供述している様子であった。
信じがたいことに、我々に身に覚えのない写真までも、
すでに証拠品として提出されていたのだ。

この写真は、どこかのバーカウンター(うちのバーではない)を背景に、
ハードリッカーが並んで置いてある写真だ。
丁寧に、3種類の違法酒が、空きボトルと新品ボトル1本ずつ、
計6本綺麗に並んでいる。

まったくの捏造写真である。

私は、ポリス側の弁護士にそれを見せられた時、

「ここまでやるのか・・・」

と思ったが、あまりにも幼稚で現実味に欠ける発想に、
逆にこれを暴くことが出来れば、「勝ち」だとも考えた。

この写真に関しては、事情聴取を受けた我々サイドの全ての者が、
現場(私の店)でないことを主張し、その証明も可能だということを伝えた。


後にポリス側は、この写真が証拠品であることを取り下げた。

取り下げれば、それで済むのだろうか・・・・・


いずれにしても、これまでの奴らが我々にしてきた行動や言動は、
我々当事者だけではなく、他の従業員を始め、多くの人間達が見ている。
証人を立てることも可能である。
ビデオテープも含め、いくつかの証拠品も貯えてきた。

私は、もはや、この国の「正義」に頼るつもりは毛頭ない。
しかし、以前の町ぐるみの隠ぺいと同じように、法的機関そのものに
政治的な陰謀や癒着がなければ、これだけの証拠が揃っている我々は
有利なはずである。


我々の事情聴取を全て終え、ポリス側の取調べも終わろうとしていた頃、
バーバラからの一報があった。

「ミスターK、 とうとうポリス側が私に示談を持ちかけて来たわよ!」

私は、この時に初めて希望が見えた。

私は、彼女達5人のケースと、店に対するケースの合計6件で
告訴していたが、私の店に対してのケース内容に限っては、
複雑かつ重大事件として扱われているので、彼らがたとえ示談にしたくても、
裁判をま逃れることは出来ない。

だが、彼女達のケースは、本裁判にまで持ち込まずとも、
彼女達が納得すれば、それで解決となる。
相手が示談を持ちかけて来たということは、奴らが「非」を
認めたということだ。

これで、全てが解決するわけではないが、少なくとも、
彼女達5人に対して、かけられた濡れ衣を晴らすことが出来る・・・


しかし、実はここに至るまでに、我々の身内で「不協和音」が
響き始めていたのだった・・・

これらの「事件」というのは、それほど単純なものではない。
事件に潜む新たな「魔物」を思い知ることになる。

今回のこの事件に限らず、こういった事件は、
たとえ、示談や裁判よって解決が見出されたとしても、
新たな問題が独り歩きしてしまうものなのだ。

我々のケースも例外ではなかった。


             続く

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2008年6月 1日 (日)

不撓不屈 (第10話) 攻防戦

この頃になるとバーバラも、助っ人の弁護士を連れてくるようになった。
バーパラにとってもこれは商売なので、市やポリスから
賠償金を取ることができなければ、苦労も水の泡なのだ。

バーバラ達は、これまでの調査資料を元に、
ポリスに対する私の明確な意思と、正式に起訴裁判を開始することを
市とポリスに伝えた。

そのためにも、まずはポリスの持っている資料の公開を要求した。
弁護士からの資料請求は、たとえ相手が警察であっても、
正当な権利だが、市はこれを拒んだ。

「Kの店を狙い打ちにするのは何故なのか?」
という問いに対しては、当初言っていたこととはまるで食い違うが、
「とにかく客の飲酒運転が多いから」と言う答えだった。

警察署長が言うには、

「Kの店からの飲酒運転の検挙率資料と証拠は見せてやるし、
裁判所にも提出する。どれだけあの店が、客に酒を飲ませているかの証拠になる」

ということだったが、バーバラはここで切り返した。

「ありがとう! 署長さん。この町にあるバーはあの店だけではないのに、
「K」の店だけ・・・特に東洋人客の検挙率が高いと言うことは、
貴方達が「K」の店を狙い打ちにしたという重要な資料になるから助かるわ!」


あまりにも極端なことだが、この日からうちの店の客はポリスに止められなくなった。
それどころか、この町にある他の3軒のバーに初めてバーチェックが入ったという
情報が来た。
他のバーは、確かに白人経営だが、彼らは白人といってもアメリカ人ではなく、
イタリアやアイルランドから移民としてやってきた連中が多い。
そのうち、イタリア系マフィアの経営するバーでは、最近発砲事件などがあって、
この町のポリスから目を付けられ始めている様子だった。
だが、今回のように彼らの店にバーチェックが入るのは始めてのことだった。

彼らは、我々のようにポリスから差別的な扱いを受けているわけではなかったが、
我々には協力的で、普段から互いに客を流したり、情報を交換したりしている。
要するに私と同じで、この町のポリスが嫌いなのだ。


次第にポリスは、公道で飲酒検問まで始めるようになった。
このアメリカで、飲酒のための検問を見たのは始めてである。

バーバラの見込み通り、ポリス側も私の店の客だけが検挙されている事は、
逆に不自然なことだと悟ったに違いない。

奴らのすることは、まるで計画性がない。

しばらく、こんな攻防戦が続いた。

この間に我々もかなりのネタを掴んだ。
隠ぺいされた裁判をはじめ、数々の違法捜査の調査結果を元に
起訴裁判を始める準備を行なっていた。

ポリスはポリスで、我々が起訴の準備をしていることを知っていたので、
過去の自分達の捜査を正当化させるために、
いまだにどんな小さなことでも、我々の違法行為を探し、調査していた。

それと同時に、市とボリスは守りの工作をするようにもなってきた。

驚いたことに、この町のポリスに白人以外の警官が新たに
3人配属されて来た。
黒人の男女1人ずつと、メキシコ系の警官が1人、しかも右も左も
分からないような新人警官達である。

驚いたと言うよりは、おかしくて笑いが出てしまう。
私は15年以上この町を知っているが、黒人はおろか、女の警官だって
見たことはない。
市の職員に有色人種が加わったのは、
100年近く経つこの町の歴史上でも、初のことだ。
市の組織に、奴らの嫌いな有色人種を配属させるということは、
彼らにとっても、断腸の思いであったに違いない。
我々の事件が、あくまでも人種差別によるものではないことを
裁判で主張するための苦肉の策である。

それだけ、市も必死なのだと言うことが覗えた。

この国は建前上・・・
あくまでも建前上だが、人種差別には厳しい判断が下される。
もし、我々に対する事件が人種差別や性差別によるものだと判決されれば、
100% ポリスに勝ち目はない。
その上、メディアにも目を付けられ、町のイメージ低下と、
市長にとっては、時期市長選にも影響してくることは必定である。

大晦日のガサ入れ以降、1年近くが経とうとしていたが、
それ以来、奴らは私の店内にまでは踏み込むことはなかった。

しかし、ここに来て、あの日以来のバーチェックが入った。


今回のバーチェックには、あのチーフポリスもグリズリーも
見当たらなかった。
おそらく、あの2人に関しては、我々が名指しで調査を進めている事を
知ってのことだろう。
その他のメンツは皆見覚えのある顔ぶれだったが、
1人だけ見かけない警官がいた。

その警官は、5~6人ほどいたボリス達の先頭を切って、
警棒を片手に物凄い血相をして、階段を上がって2階のバーへ入り込んで来た。

「ポリスだ! みんなおとなしくしなさい! ポリスだ!」

大声で怒鳴りながら、1人でいきり立っている。
それは、最近配属されてきたあの黒人の婦人警官であった。
あまり若くは見えないが、おそらくまだ20代後半と言ったところだろうか、
まるで、女子プロレスラーの悪役のように太っていて、デカイ。
とにかく、彼女は1人で興奮しているようであった。

店内では、音楽が鳴り響いていたので、その時点では
まだ数人の客とウエイトレスしか、その警官に気付いていなかった。
その黒人の婦人警官の後からゾロゾロと他のポリス達が階段を上がって来た。
ここで、店内にいたほとんどの人間は、ポリスがバーチェックに来たことに
気付いた。

それでも、音楽は鳴り止まず、数人の客は構わず踊り続けていた。

バーのママである明美は、ポリス達を見ると、
すかさずその黒人警官の前に立ち塞がって仁王立ちになった。

それを目の前にした黒人警官は、そのダンプカーのような身体で
明美をめがけ体当たりして、明美を突き飛ばしたのだ。

「キャッ!」

明美はその場に吹き飛ばされた。

その女ダンプ警官は、

「ポリスだと言ってるでしょ!  そこをどきなさい!」

そう言って、警棒を振り上げた。


そこで音楽が止まった。

席に座っている者達も、みな総立ちになり、明美の元に駆け寄って来た。

客達はいっせいにそのダンプ警官に罵声を浴びせ始めた。

後から入って来た警官達も、さすがにヤバイと思ったのか、
そのうちの1人がそのダンプを呼び寄せ、後ろの方に連れて行き、
ダンプに何やら注意を促している様子だ。

明美は、その場に立ち上がり、

「コラッー!!! そこの女警官! 今私を突き飛ばしたわね。
用事があるなら、さっさとこっちに来なさいよ」

と、叫びながら腰をさすっている。

明美は30代の九州女だ。
普段はおとなしい面持ちだが、切れると誰も何も言えないほどの
気性の持ち主である。

どうやら今日の陣頭指揮を取っているのは、以前にも登場した
あのスキンヘッド警官のようだ。
スキンヘッドは、明美に近づくと、

「・・・大丈夫か? ・・・今のは単なるアクシデントだ」

苦し紛れにそう言った。

現在、我々とボリスとは対立状態にあり、互いに違法な行動を
取ってしまうことに敏感になっている状況である。
警官がいきなり無抵抗な店員を突き飛ばしたということがどういうことなのか、
スキンヘッドも察知していた筈である。

「我々は今日、バーチェックで様子を見に来ただけだ」

スキンヘッドがそう言っても、明美は興奮覚めやらぬ状態だったが、
自ら落ち着こうと、深呼吸をしてから、スキンヘッドに言った。

「あら、そう。 貴方達のバーチェックは随分と暴力的なのね!」

すると、奥からもう1人の口ヒゲを生やした警官が出てきて、
そばにあった客の飲み残しのビールグラスを手に持つと、
なんと明美めがけてそれを引っ掛けたのだ。

「お前は何様だ! このアバズレ女が!」

せっかく落ち着いた明美だったが、これにはぶち切れた。

「テメーこそ、何様だ!  このクソヒゲ野郎!!
あんた、今私に何をしたかわかってんのかー オラーッ!」


目の前にいたスキンヘッドは、少し慌てた様子で、

「私が彼女と話すから、下がっていてくれ」

と、ヒゲ警官に言って、明美をなだめようとしていた。

明美のそばにいたバーテンダーは、明美が完璧に切れてしまうことを
逆に恐れ、明美の腕を掴んだ。

だが、しばらくして明美は、グッと抑えた様子で、

「・・・大丈夫よ!」

と、静かに言って、その手をゆっくりと掃った、
そして、スキンヘッドに向かい、落ち着いた表情でこう言った。

「私が、怪我をしてなくてよかったわね。
もしかしたら、骨が折れてるかもしれないけど・・・
今日の貴方達のバーチェックは全て、あそこのテレビカメラで録画されているわ。
明日、それを持って弁護士のところへ持って行く・・・」

そう言って、2階の入り口付近に取り付けてあったテレビカメラを指差した。

ポリスどもは、一斉にそれを見た。

「・・・・・・・・・」

奴らは互いに顔を見合わせた後、スキンヘッドが

「さっきの出来事は、あくまでもアクシデントだ」

明らかに動揺している様子だったが、その後、

「引き上げるぞ!」

と、他のポリス達に言うと、バーチェックもせずに全員店を出て行った。

それにしても、まるで「ピエロ」だったのは、あの女黒人警官である。

ポリスは、警察内部に女黒人警官がいることを我々に見せつけ、
人種差別や性差別による起訴を逃れようという計画は見え見えだった。
おそらく当の黒人警官も、上司に手柄を餌におだてられ、
さしずめ「ヤクザの経営している悪徳バーの摘発」という任務に、
俄然張り切って乗り込んで来たのだろう。

だが、少々張り切り過ぎたようだ。
これで、ポリスの悪巧みもパーになっただけでなく、過剰かつ違法な捜査の
証拠という土産物を我々に渡してしまったようなものだ。

この日の出来事も、裁判で我々に有利になる筈だ・・・・


この最後のバーチェックから、1年・・・・最初のガサ入れから数えると
2年経った今も、裁判は続いている。

考えていた以上に、奴らは悪徳だった。
いや、往生際が悪いだけなのかもしれない・・・
「市」の管轄を超えた「公」の裁判と調査によって、もう奴らには逃げ場はない
はずだが、それでも自分達のしてきたことを認めようとはしない。

警察側(警官達)が受ける取調べに対しても、彼らはいまだに
嘘を突き通しているばかりではなく、まったくのデタラメな証拠までも
持ち出して自分達を守ろうとしている。

人を殺しても、金や知名度があれば、無罪となってしまうような国である。

「正義」のために戦おうとしている自分でさえも、もはや「正義」などという
ものがこの世にあるなんで信じられくなっていた・・・


               続く


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2008年5月29日 (木)

不撓不屈 (第9話) 挫折

一難去って、また一難である。


保健所の件が一段落すると、今度は市の消防署が検査と称して
5~6人でやってきた。
毎月、あるいは毎年検査をしているならまだしも、消防署が検査に
やってきたのは、なんと11年ぶりである。

11年前までは、確かに年に一度ほどの頻度で検査には来ていた
記憶がある。
だが、11年前の火災という事故があって以来、消防署からの
検査を受けたことはなかった。
それが何故だったのかは分からない。


1997年、夏の暑い日に、この店の2階からボヤを出してしまった
ことがあった。
当日の新聞には、乾燥した砂漠からの空気のせいで
各地で火災や山火事が発生していたとある。

その頃は、2階はまだ完全なバースタイルではなく、レストランの
一部として営業していた。
日曜日の夕方、営業が始まった直後に警報機がなった。

私が車で店に向かっている途中に、従業員の一報でそれを知らされた。

すでに消防隊が来ているとのことなので
とにかく、私は客の安全を第一に対処するように支持を下した。

10分後に私は店に着いた。
その時はもう、鎮火していたが、店の2階は全て無残に焼けて、
黒焦げの柱が何本か立っているだけだった。
隣りのビルや1階にまでは火は及ぶことなかったし、
何よりも怪我人が出なかったことは幸いだった。

原因は、昼休みに2階のベランダでタバコを吸っていた従業員の
火の不始末であった。

1階は無事だったとは言っても、全てが水浸しで、
完全に修復するまでは、営業することは不可能である。

この後、当然調書を取られたわけだが、あまりにもあっけなく
取調べは終わった。

火事の一部始終を見ていた従業員から聞いたことだが、
消防隊が来た時にはまだ、ベランダの一部が燃えていた程度だったそうだ。
しかし、そこから約5分間、消火活動が行なわれなかったと言う。

道路脇によく見かける消火塔のフタがさび付いていて回らずに、
消防隊がそれに手こずっていたためだ。
これは、直接は彼ら消防隊の責任ではないだろうが、
市が点検を怠っていたという点では責任重大である。

火事の5分と言うのは、火が10倍にも20倍にも広がる時間であり、
生死の分かれる貴重な時間でもある。
結局、その5分の間に、火は2階を全て飲み込んでしまったのだ。


そのことがあってから、市内の消化塔は全て新品に取替えられた。

そうは言っても、火事を起こしたのは私達、いや、私の責任である。
怪我人がなかったこともあり、消火活動の不手際に関して私は
触れることはなかった。

当時の消防署は、その辺のところは理解していたように思う。
消防隊長も、書面において消火活動が遅れたことに対しての
詫び状を送ってきたからだ。

だが、市の上層部の捉え方は少し違っていたようだ。
火事を引き起こした私は市のブラックリストに載った。


結局、店を再開するまでに、1年以上を費やすことになった。
それは、「日本」と言えば「パールハーバー」くらいしか思いつかない
連中が牛耳っているこの町が、この火事を機会に私をこの街から
追い出そうとしていたからだ。

この頃、私は何人もの人間に、
「ここまで、店の再建に協力的でないこんな町は、早く出た方がいい」
と言われ続けた。

確かに、焼けた建物だけを完璧に直して、他の町に新たに店を
構える方が、私には得策だった。

だが、私はいくら時間がかかっても、いくら借金してでも、
自分達が起こした不始末によって、店を潰すことだけはしたくなかった。

実際、私は多くの借金を抱え込んだ。
屋根のない店に泊まりこんで、建築屋と共に解体作業から取り組んだ。
市の職員からは、
「焼けた部分だけ元に戻して、もうこの町から出て行きなさい」
とまで言われた。
「レストランとして再開する為には、エレベーターを付けないと駄目だ」とか、
「非常階段を付けろ」だとか、無理難題を言ってくる。
結局、それらは全て市がその場で決めた決まりであり、
元々あった建築基準ではなかったので、どうにか切り抜けることは
出来たのだが、こんなことの繰り返しで、時間だけが刻々と過ぎる。

火災保険にはもちろん加入していたので、ある程度はまかなえるが、
当初、私は保険金額を発表しなかったため、この金を目当てに
多くの人間が、ハイエナのようにたかってきた。
様々な機関への対応などで、協力してくれた信用のあった人間も、
結局はゼネコンとの取引で横領を計画していたことが発覚して、
島送りにしてやった。
建築屋も保険金の額が底を付きそうになると、もらうものだけもらって、
仕事も途中で逃げて行った。

最初のうちは一部の従業員達も協力してくれていたが、
時間が経つにつれ、先も見えなくなって、1人、また1人と消えていった。
私も、給料が払えるわけではなかったので、それは仕方のないことだった。

当時の私には、この店ひとつが収入源だったために、数ヶ月もしたら、
業者をはじめ、仕事関係の知り合いは皆、「もうこの店は終わった」と
判断したのだろう。
以前までの態度とは打って変わり、皆知らん顔である。
電話にも出やしない。

人間というのは、こういう時にこそ、本性が見えるものだ。

こういう奴らほど、私が店を再開した途端にハエのように手を
こすり合わせて、近寄ってくる。

気が付けば、私は1人になって金づちを片手に、雨の日も風の日も、
見よう見まねで工事を進めていた。
工事費用も底をついた。

持っているクレジットカード全てを、限度額まで借り切り、
1日たりとも待ってはくれない家賃を払い込むためにも、
少しでも収入を作ろうと、知り合いの店でアルバイトもした。

だが、そんなもので追い付けるはずもなかった。

まったく先が見えない状態だった。

何度も何度も挫折間を味わった。

それでも、諦めることはしなかった。


正直のところ、再建できるとは自分でも思ってなかったのかもしれない。

季節は巡り、火災から1年がたとうとしていた。

ある程度建物が出来上がり、最終的に保健所やその他の機関から
営業を許可されて、店をオープンできる状態になっても、
なぜ、店がまたこうして出来上がったのか不思議だったのだ。
どうやってここまでやってきたのかさえも覚えてない。
気力だけで、やってきたように思う。

そして、親身になって協力してくれた人達もいた事は事実である。


諦めなければ、いつか形になるもんだと知った。

そしてまた、ゼロから始めようと思った。


驚いたことに、店を1年ぶりに再開したその当日、
何も告知していなかったのにも関わらず、
オープンと共に何十人という客が来店した。

「オープンする日を、ずっと待ってたよっ!」

「毎日、この店の前を通って気にしてたんだ。
そしたら今日、看板の電気が点いてたから来たんだ」

そんな風に声をかけてくれる客達が次から次へと来てくれた。

何よりも嬉しかったのは、火事によって店が急遽閉店となり、
他の店や、他の町に仕事を見つけて散らばって行った従業員達が、
店の再オープン後、1人残らず全員、戻って来てくれたことだった。

泣きそうになった。
いや、泣いた。
諦めなくてよかったと、心から思った。


それからの10年間、私は自分のためだけにではなく、
客のため、そして従業員のために、この仕事を続ける使命を
背負ってビジネスをやってきた。

そして、それがいずれは地域のため、国のため、祖国のため、
人間のため、世界のため、地球のためになると信じていた。


だが、現実はそう甘くはなかった。

結局、私はまだ、そこまで考えられるだけの人間には到達していない。
そんなキレイごとを言っていられるほど、この世の中はキレイじゃなかった。

あの火災事故があって、店を再オープンする時に、最終チェックの
ために消防署員が店にやって来たのが最後だった。
10年ぶりにやってきた消防署の人間は、店の消火器などを
丹念にチェックしている。
彼らは、ポリスに比べれば、紳士的であった。
しかし、彼らもまた市の職員であることには違いない。
市から送られてきた彼らの目的は分かっている。

彼らは、店の設計図が欲しいと言ったので、
事務所の倉庫の奥ににしまってあった設計図のコピーを手渡した。
そして、彼らは何も言わずに戻っていった。

その3日後に、消防署と市の建造物設計課から通知が来た。
そこに書かれていることは、
この店が、消防法にそぐわないつくりになっているために、
新たな許可を取らなければならないと書いてある。
そしてその間、店は営業できないとなっている。

私は、消防署員が検査に来た時点で、
市がこういった問題を仕掛けてくることを想定していた。

10年前に火事で店を建て直した際、こと細かく設計図について
市と消防署の許可を取って来たので、私はそれらの書類を全て用意して、
市に出向いた。

すると、10年前の法律と今の法律は違うから、昔の設計図も
許可証も無効であると言ってきた。

とにかく、つつけるところからつついて、何とかして店をクローズ
させたいのだろう。

再度、弁護士に連絡を取り、市と消防署に向かわせた。

しかし、今回弁護士バーバラから帰ってきた答えは、
いいものではなかった。

「ミスターK、今回の件は、ちょっと簡単には済みそうにないみたい。
今になって消防法を持ち出すのには、彼らの懇談があるには違いないけど、
調べたところ、確かにこの10年で建造物の基準が変わっているのは事実よ。
残念だけど、今は店をクローズするしか方法はないわ・・・」


私は落胆した。


どんなことがあっても、諦めずに戦う意思はあるが、
それは、店があってのことだ。

店を閉められたのでは、戦力をもぎ取られたのと一緒だ。

それに・・・ ここまで来ると、もう戦う気力さえも失せてしまう。


疲れた・・・・・

それが、正直な気持である。 

10年ぶりに挫折感を味わった。

私財を投げ打ってでも、私はこれらの権力に立ち向かおうと
しているのは、事実である。

しかし、今の私には10年前のあのパワーはない。

何よりも、あの頃の自分と今の自分では背負っているものが違いすぎる。
先の見えないこの戦で、私が全てを失うということは、
私を信じてくれている他の店の従業員達さえも、路頭に迷わせることになる。


あそこまで頑張れた自分も、ここに来て初めて、諦めようかと真剣に考えた。

こんな「正義」のかけらもないこの国で、自分がどこまで戦っていけるか、
自信を喪失してしまった。

もう、いっそうの事、全てを清算して日本へ帰ろうとも思った。


だが、それもつまりは「逃げ」でしかない。

従業員達にリスクを負わせることは、避けなければならないことだが、
逃げることによって彼らを裏切ることは、それ以上にあってはならないことである。

あの火事の後、ずっと再開を心待ちにしてくれていた客や、
他の仕事を辞めてまで、私の店に戻って来てくれた従業員達の気持。

そして今、営業停止状態の店内で私が1人で掃除や片付けをしていると、
どこからともなく従業員達が集まって来ては

「 いつまたオープンできるんですかね。早くオープンできるといいですね」

などと、呑気なことを言いながらも、ホウキを手に掃除を手伝ってくれている
奴等を見ていると、

「こいつらのこんな気持を絶対に裏切るわけにはいかない」

と、そう思うのである。

とにかく、今自分に出来ることをひとつひとつ、消化していく他はないのだ。

私はまず、現在の市の規定と消防法に沿った設計図を、
知り合いの設計士に頼んで書いてもらい、許可を待つことにした。
工事そのものは、それほど大きなものではないが、
この許可が取れるまでの期間が問題になる。

我々からすれば、単なる時間稼ぎのようにも思えたが、
その許可が下りるのに3週間かかった。
その後、1週間かけて工事を行なった。
合計1ヶ月間、店を営業することが出来なかった。

1ヶ月、店を閉めるということは、それだけでかなりのダメージとなった。
従業員にも客にも多大な迷惑をかけた。

いつまで、こんな「いたちごっこ」が続くんだろうか・・・・

             続く


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2008年5月21日 (水)

不撓不屈 (第8話) 営業停止

それからしばらくは平和な日々だった・・・・

と、言っても、それは長く続かなかった。


1ヶ月ほど経ったある日、店のランチ営業中に保健所(ヘルスデパートメント)の
検査官が訪れた。
前にも述べたが、ロサンゼルスのレストランには年に3~4回、
定期的に所轄の保健所の検査官が訪れ、指導及び採点をすることになっている。
そして、「A」から「C」までのランクを付け、店先にそれを表示するのだ。
ゴキブリやネズミなどが見つかれば、数日間営業停止となることもある。

日本でもそうだったが、ある意味、レストランにとって保健所は
警察よりも恐ろしい存在である。

検査官は通常1人で来るが、今回は見慣れない検査官3人が訪れた。

彼らは、無言で冷蔵庫の中や、床下など調べる。
営業中の忙しい最中に来ることは、珍しいことではないが、
食事中の客がいるダイニングまで調べることは、滅多にない。
今回は客の座っている寿司カウンターの中まで入って来て、
客の見ている前でいきなり、ショーケース内の寿司ネタに無造作に
温度計を突っ込んでくる。
そして、採点表と思われる書類に何やらぎっしりと書き込み始めた。

寿司カウンターで食事をしている客は何事かと思うだろう。

その光景を見かねた1人の客が、検査官に向かい

「お前ら、いきなり何するんだ。 だいたいお前らは何者だ」

と、文句を言う。

「俺達は、インスペクター(検査官)だ」

と、1人の検査官が答えると、他の客が

「何のインスペクターか知らないが、いきなり食事中の俺達の目の前で、
寿司ネタにブスブスと訳の分からない物を突き刺したら、不衛生だし、
食欲がなくなるだろ」

そう言って、ウエイトレスに会計を頼んだ。

寿司カウンター内にいた寿司シェフが、検査官に

「今、調理中だし、お客さんがいる状態なので、後にするか、
せめて私やお客さんにきちんと事情を説明してからやってくれ!」

そう言って、寿司シェフは仕事を中断して手を洗い終わると、
客に侘びを入れた。

それを横目で見ていた検査官は、いつの間にか片手に
ストップウォッチを持っている。 そして、

「減点4点だ!」

と、ぶっきらぼうに言った。

「はっ? 何が減点なんだ」

寿司シェフがそう聞くと、

「お前は今、手を20秒間しか洗わなかったが、ヘルスの法律では、
30秒間洗わなくてはならないことになっている」

検査官はそう言いながら、また書類に書き込む。

まさか、手を洗って減点されるとは、にわかに信じられないが、
後で、ヘルスコード(規則)を調べると、確かに30秒間洗わなければ
ならないと書いてある。
だが、通常このルールは、調理前に手を洗う場合に対しての規則である。


ドアの隙間が6ミリあるから、それを直せと言う。
隙間が許されるのは5ミリまでだそうだ・・・


結局、このような「あら捜し」によって様々なことが減点対象となった。

たとえ検査官に逆らっても、検査官のさじ加減(気分次第)で、
いくらでも減点できることは、どこのレストランでも一般的に理解している。
それは、意外とどうにでも解釈できるトリッキーなルールがかなり
存在するからだ。

それにしても、今回の検査は過剰すぎる。

結局、ランクは「C」になってしまった。
これまで「A」ランクを維持してきた我々には、
どうしても今回の検査に納得がいかなかった。

「C」ランクと言うのは、滅多に見ることはない。
これだけで、客の・・・特にアメリカ人客に対しては、
かなりのマイナスイメージである。


我々は、注意と減点された部分を徹底的に修復して、
法律にのっとり、再検査を依頼した。
ランク変更の為の再検査は1年に1度だけは許されている。


再検査は2日後に行なわれた。
再検査はシティーにある管轄の保健所ではなく、
いくつかの保健所を統括しているセンターから別の検査官が
来るように手配した。

再検査においては何も問題なく、再度「A」ランクを取ることができた。


1回目の検査が厳しかったとは言え、ここまでは管轄の保健所に
特別な意図があるとは誰も思っていなかった。


だが、ここから不自然な展開になっていくことに、
我々はある疑問を持つようになる。

再検査が済んでひと安心していると、2週間後にまたあの3人の検査官が
やって来た。
その3人の検査官は、またもや店内で検査を始め出した。
調理場をチェックしている彼らに向かって、店のマネージャーである健二が、

「再検査は済んだはずだ。 あれからまだ2週間しか経っていないのに
また検査をするつもりなのか?」

そう聞くと、1人の検査官が

「この店にはゴキブリが発生していて、悪臭も放っているという通報があった」

そう言って、ゴキブリが苦しんで逃げ出すための特殊なスプレーのノズルを
あらゆる隙間に吹きかけ、懐中電灯で照らして観察している。
その検査官は首を横に振りながら

「出てこないな・・・」

とつぶやいている。

「ちょっと待ってくれ!  ついこないだお前達が検査に来て、言われたことは
全部クリアしたし、害虫駆除もきちんとしている。 それに匂いなんか何も
してないじゃないか」

そう健二が言うと、その3人の検査官のリーダーらしき奴が、

「残念だが、今すぐ店を閉めなさい。 営業停止だ!」

と、いきなり言い放った。

健二の声が荒くなる。

「おいおい! 冗談だろ!   どこにゴキブリがいるんだよ!」

そして、そのリーダーがもう1人の検査官に目で合図を送る。
すると、その検査官は、客のいるダイニングまで行き、
店内に残っている客に向かって

「私は保健所の者ですが、ただ今よりこの店は、衛生法違反により、
営業停止となりますので、速やかにお帰りください」

と言って、店先にある「A」ランクの表示を取り下げ、
何やら文章のかいてあるボードを入り口にかけた。
そのボードには
「害虫、及び衛生法違反により営業停止」
とデカデカと書かれている。

ランチタイムも終わりに近づいていた時間帯だったために、
店には数名の客しかいなかったが、客も驚いた様子で
店を後にした。

最悪の状況である。


私はあいにく他店で仕事をしていたので、その場にはいなかったが、
健二からの連絡を受け、急いで店に向かった。


営業停止となれば、どんなに最短でも2日間は店をオープンすることが出来ない。
それよりも、実際に害虫がいたわけでもなく、誰かの通報のみで
営業停止なんかにできるわけがない。

だが、こうなってしまった以上、客からの信頼もなくなり、後々大きな痛手となる。
こういった情報は、面白がる人間(特に競合店や同業者)も多ければ、
瞬時に人から人へと伝わるからだ。

私が店に戻ると、健二が駆け寄って来て、

「社長!  申し訳ありません。 でも、これは絶対おかしいですよ」

よっぽど悔しかったのか、声が多少震えている。

検査官達はもうすでに退却した後だった。


おかしいと思っているのは、健二だけではない。

私も健二も考えているいることは一緒だった。

管轄の保健所にも、シティーから何かしらの圧力がかかっているに違いない。

通報の内容が嘘であれ本当であれ、保健所は誰かからの通報があれば、
店に出向かなければならないことになっている。
保健所は誰が通報したのかを我々に教える義務もない。
ゴキブリが一匹でも見つかれば、保健所は営業停止にできる権限を
持っていることも、事実である。


だが、実際にゴキブリはいなかった。


誰かが嫌がらせのために通報したとしても、
検査官が違反の事実を確認できない以上は、たとえ保健所でも
営業停止にすることはない。

しかも、「C」ランクにしたはずのレストランが、
正規の再検査により、何の問題もなく「A」に戻った直後の
出来事である。


完璧に仕組まれたものであると、我々は考えた。


私は、さっそく弁護士バーバラに連絡を取り、裏を取ってもらうことにした。

翌朝、バーバラは直接管轄の保健所と、統括センターに行って、
いくつかの情報を取ってきた。

まず、管轄の保健所に通報があったことは事実らしいが、
どうやら、それは市の職員からの通報であったこと。
そして、害虫が発見できない以上、それを理由に営業停止には
出来ないということ。
何よりも、最初の「C」をもらった時の検査も、今回の営業停止も、
保健所の統括センターでは、把握できていなかったと言うのだ。

これも、おかしな話ではあるが、保健所に限らずアメリカの
公的機関では、たとえ同じ組織内でも他の部署や、人によって
言うことややることも、ルールさえもまちまちな解釈をすることが多く、
あり得ないことではなかった。

しかし、今回の件ではどう考えても、明らかにうちの店の管轄である
保健所に対して、警察とシティーの手が及んでいたとしか考えられない。

バーバラいわく、いったん店を潰そうと思ったら、
こういった機関の連携によって、現実に潰されてしまう店があることも
事実らしい。


結局、保健所の元締め(統括マネージャー)に事情を説明し、
2日後には「A」ランクのままで、店を再開することが出来た。
エリアを仕切っている保健所の統括マネージャーでさえも、
今回の営業停止には首をかしげていた。


この後も、裁判の始まるまでの1年間に何度となくシティーからの
「通報」によって保健所が検査に来たが、保健所には不正が発覚
した場合の我々の出方を充分に説いて釘を刺したので、筋の通らない
メチャクチャな検査はなくなった。

保健所は「市」の機関ではなく、あくまでも「州」の機関であるため、
個人的レベルでの癒着はあったとしても、小さなレストラン1軒を潰すために
危険を冒してまで、市に協力する必要はないはずである。


だが、「通報」という手を使えば、市は自分達の手を汚さずに、
我々にダメージを与えられることだけは確かである。
飲食店に限らず、企業の生命を脅かす存在は、他にも税務署をはじめ、
イミグレーション、労働局、ABC(酒類販売管理局)など、たくさんある。
法を犯していなければ、何も問題はないはずだが、
悪意を持った通報によって、それぞれの機関の調査を受け、
それに対処していくだけでも、それは相当なリスクとなってしまう。

そういえば、ちょうどこのころ、以前のポリスからの報告を受けた「ABC」から、
酒販売に関する違反の出頭命令を出された。
だが、これも弁護士と共に「ABC」に出向き、事情を説明したところ、
おとがめはなかった。


さて、市(シティー)にはポリスの他にもうひとつの機関が存在する。
それは、消防署である。
この機関もポリス同様、市が実質的なオーナーであるため、
シティーのコントロール下にあると言える。


案の定、シティーが次に送り込んできたのは、この消防署だった。

                続く

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2008年4月 7日 (月)

不撓不屈 (第7話) 陰謀 

我々は、対策を練ることにした。
まず、奴らが違法な捜査をしていることの証拠を掴むことが先決だ。
店内には、バーチェックに備えてテレビカメラを設置し、
テープレコーダーやカメラなども常備した。
従業員には弁護士の名刺を各自持たせ、引き止められた際には、
その名刺をポリスに見せ、質問は全て弁護士に任せるように伝えた。

正当な理由なく、店や特定人物を張ったり、追跡したり、職質したり
することは、当時はまだ違法だった。
当時は・・・と言うのはその後シティーの捜査規定が改定されたからだ。
現在では、何の理由がなくても、職務質問することが許されている。
しかし、もともとが正当な理由などないのだから、
あまり、意味はないようにも思える。

街のあらゆる交差点にも「Nシステム」のレーダーが設置された。
私の店だけのために、ポリスがそれらの行動を起こしているとは、
思えなかったが、私がポリスを訴える準備をしていることを知った後の
ポリスの変化を考えると、奴らも必死になっている事がうかがえた。

奴らは、以前にも市内にあるバーを2軒ほど潰している。
どちらも小さな場末のバーだが、ひとつはインディアン系で、
もうひとつはメキシカン系のバーであった。
現在、市内に残っているバーは、私の店を含めて4軒である。
他の3軒のバーは全て白人が経営している。
そうとなれば、最後の標的は日本人が経営しているバーになる、
というのが奴らの自然な流れであろう。

以前に潰された2軒のバーは、ポリスの営業妨害に屈して、
店をクローズしてしまった。
彼らは、弁護士を雇うことはしなかった。
なぜなら、小さなバーであれば、その弁護士と裁判費用だけで、
他の街に店を1軒出店できるほどの金額と時間と労力が
かかってしまうからだ。
そのため、ポリスも私が弁護士を雇い、起訴するとまでは考えて
いなかったようである。

私は、ビジネスをしていても、本質はビジネスマンではない。
そのために、商売が下手だと言われることもあるが、
損得は別にして、売られた喧嘩を買わずにはいられない。

全私財を懸けても、対抗することにした。

ポリスの上層部にしてみれば、計算違いだったのかもしれないが、
現場の警官達は、退屈しのぎにそれらのゲームを楽しんでいるかにも
思えた。

私が車で街の交差点に、赤信号で止まっていれば、
ポリスカーが横にピタリと付き、ニヤニヤとしながら敬礼をしてくる。
もちろん、敬意を表しての敬礼ではない。

たまたま、白人の常連客がポリスに話しかけられた事があったらしいが、
警官は、彼がうちの客とは知らずに、

「あそこの日本食レストランとバーは、ジャパニーズマフィアが
経営している店だから、行かない方がいい」

などと、言っていた奴もいるらしい。


そんな日々が続いていたある日、
またひとつ面倒が起きた。

平日の夜8時頃、バーテンダーの和樹が出勤して来た際、
和樹が店の裏に車を駐車した途端、2台のポリスカーに囲まれた。
この時の目撃者は、たまたま同じ時間に出勤して来た女の子であった。
彼女の話では、

和樹が4人の警官に車から降ろされ、職質に遭った。
その後、車の中と持ち物を全て検査されたが、
何も出てこなかったので、和樹が仕事に入ろうとしていたところ、
1人の警官が、

「こいつは、ドラッグをやっているようだ」

と言い出した。

和樹は、バカバカしいと思ったのか、笑いながら

「早く店に出勤しないと、遅刻してしまうから・・・」

と、歩き始めた。

すると、もう1人の警官が

「逃走のため、確保!」

と叫んだ。

和樹は4人の警官に再びワッパをはめられ、ポリスに連れ去られて
しまった。

その一部始終を見ていた女の子が、店に駆け込み、
まだ準備中であった2階のバーにいるママの明美に、それを伝えた。
 
私は、その時他の店で仕事をしていたのだが、明美からの連絡を受け、
バーに向かった。
その途中、弁護士のバーバラの携帯に連絡を入れたが、つながらなかった。
アメリカ人は、いざこういうときに、頼りにならない。

私は、店に寄らずに、直接警察署に行った。

ことに漏れず、明朝にならなければ、取り合うことも出来ないとの
一点張りだ。

「まさか、和樹は本当にドラッグをしていたのだろうか・・・」

という気持が一瞬よぎったが、私は和樹を信じていた。

何故、そんな心配をしたかと言うと、すでに我々が弁護士を雇っている
ことをポリスが知っている以上、裏も取らず、無意味に手を出してくる
事はないと考えていたからだ。

それに・・・
和樹にはドラッグの前科があった。
しかし、それを断ち切ることを前提に、私の元で働くという
約束を交わしたはずだ。


和樹が狙われた理由として、もうひとつ思い当たるふしがある・・・

それは・・・

話は少しさかのぼる。

大晦日のあの晩にポリスの手入れがあった際、私と和樹の2人だけが、
不法な酒販売をしているという罪で、書類送検された。
その1ヵ月後、裁判所への出頭の日に我々は弁護士を連れて出頭した。
裁判所と言っても、市内にある裁判所である。
裁判官をはじめ、職員も陪審員も何らかのシティーとの関係を持っている
連中ばかりだ。
こんな状況の中で、公平な裁判が成り立つ訳がない。
もともと不利な状況ではあったのだが、実はここで面白いことが起きた。


我々が、弁護士を引き連れて来ることを、連中は予想していなかったようなのだ。
しかも、このバーバラという弁護士は、身なりはタダの黒人のおばちゃんだが、
これまでにも、市や企業を相手に金をふんだくって来た、らしい・・・

裁判所に入ると、警察や市の関係連中に何やら戸惑いの形相が見え始めた。
この日の裁判は、私達の件だけではなく、他に2つの事件の裁判も
行なわれることになっていた。

すでに2つの裁判が終了し、20分の休憩時間があった。
再び裁判長が現れて、次は我々の番だと思いきや、裁判長は

「これにて、本日の裁判は全て終了します」

と言った。

バーバラは手を揚げ、

「裁判長、どういうことですか? 私達の件はまだ始まっていません」

「いや、本日の裁判は以上です」

そう裁判長が言うと、我々以外の関係者は皆、席を立ち、
そそくさと外に出て行ったのである。
グリズリーは見当たらなかったが、あのチーフポリスは
不機嫌そうに我々を睨み付け、部屋を出て行った。

バーバラは、書記長のような人物の元へ駆け寄り、
いろいろと質問していた。

私と和樹は、まるでキツネに抓まれたような気持だった。

しばらくして、バーバラが私達を外に出るように目で合図した。
私達が外に出ると、バーバラが大きな目をさらにクリクリして、
あたりを見回しながら、小声で私達に言った。

「不思議だわ!
あの大晦日の事件そのものが存在しないってことになってたの。
でも、貴方達は間違いなくチケットを受け取っているし、裁判所からの
出頭命令も出ているわ! それに、入り口にあった裁判予定表には、
貴方達の名前も記されていた・・・」

バーバラは少し考えた後、

「この件・・・・きっと勝てるわ・・・」

そうつぶやいた。


おそらく、バーバラはこの時点でやっと我々の話の信憑性を
確信したのだと思う。

考えてみれば、ポリスには何も証拠がないはずだ。
2時以降の酒販売にしても、事実でない以上、証人もいなければ、
奴らが勘違いをして持っていった「ジンロー」の空きボトルだって
何の証拠にもならない。

奴らは、ここに来て初めて「逃げ」を選んだ。
そして、連中は「ヘマ」を犯した。

なぜ、ヘタをうったかというと、奴らは裁判を放棄した訳ではなく、
また証拠不十分のために裁判に負けたわけでもなく、
我々に「違反チケット」という証拠を残したまま、
事件はおろか、裁判そのものが抹消された・・・・
すなわち、事件そのものが隠ぺいされたのである。
ということは、市内にある裁判所をはじめ、「市」そのものが
「グル」になっていることを証明したようなものだ。

だが、私は安心するどころか、ますます心配になった。

奴らがこのまま引き下がるとは思えなかったからだ。
まして、このまま我々が起訴に踏み切れば、奴ら自身の身が危ない。

そうなると、奴らに残された道は、私と店をトコトン潰すしかない。


そういった経緯があるので、あの裁判で奴らが有罪に出来なかった
私と和樹は特に気を付けなければならないと感じていた。
まして、和樹には前がある。
叩けばホコリのひとつでも出ると考えていたに違いない。


話を元に戻そう。


和樹が留置された次の朝、私は和樹を迎えに行った。

酷だとは思ったが、私は和樹にストレートに聞いた。

「和樹・・・ お前、ドラッグをしていたのか?」

すると、和樹は目を真っ赤にして、

「社長・・・ 信じてください。 もう、いっさい手を出してません。
でも、店がこんな大事な時に、こんなことになってしまってすみません・・・」


私は内心「ホッ」とした。

「分かった。信じる・・・ それに、俺がきっちりお前を守ってやる」

私がそう言うと、和樹は何度も頭を下げていた。


だが、ここで青春ごっこをしている場合ではない。

和樹は、連行された後、取調室で真っ裸にされ、
ケツの穴まで調べられたと言う。

私は、そのまま和樹を病院に連れて行き、尿検査と血液検査を受けさせた。
2日以内であれば、薬物を摂取していないことが証明できる。
今後の重要な証明にもなるはずだ。


その足で私はバーバラの事務所に行き、はっきりと伝えた。

「もう、裏調査のためとは言え、奴らの好き勝手にやらせる訳にはいかない」

バーバラはうなづきながら、

「分かっているわ。早速、私は警察署に行って、直接署長と話してくるわ」

そう言って、警察署に向かった。


それからというもの、奴らの嫌がらせはピタリと止まった。
まるで私達を避けるかのように、店にも近づかなくなった。
それどころか、私の姿(車)を見かけても、スーッとどこかへ消えてしまうほどだ。
不思議なもので、ポリスカーをまったく見かけなくなると、
逆に台風の前の静けさのような、不安に襲われる。

私だけではない。
この頃になると、留置所に入れられた女の子達にも、
一種の「トラウマ」のようなものが残る。
これらは「PTSD」すなわち「心的外傷後ストレス障害」といって、
立派な病気なのだ。

こういった事件では、事件そのものだけではなく、事件によって
引き起こされた精神的な苦痛が後々問題になってくるのだ。

私は今後のためにも、彼ら全員に「セラピー」を受けさせ、
少しでも、不安を取り除けるように勤めた。

しかし、ポリスのゲームはこれで終わりではなかった。
むしろ、ゲームではなくなって来たようだ。

奴らは、本気で私の店を潰そうと、仕掛けてくることになる。
それは、逆に言うと、そうしなければ今度は奴ら自身が「悪」になる
という意味だからだ。
それと当時に奴らには焦りが見え始めた。
今度は、奴らが自分達を守らなければならない番である・・・・・


                  
                 続く

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2008年2月29日 (金)

不撓不屈 (第6話) 営業妨害

奴ら(ポリス)がこの事件を「ゲーム」と言うなら、
ここからが、本当のゲームの始まりだったのかもしれない。

次の日から、私はあからさまに監視されるようになった。

元々、私が普段乗っている何台かの車は、「N システム」によって
ボリスから行動範囲を探知されていた。
私の行動範囲があまりにも短時間で広範囲に渡るので、
不思議に捉えられていたのかもしれない。

私は、奴らから通称「K」と呼ばれるようになった。

この頃から奴らは探知追跡だけでなく、私の車を尾行し始めた。

目的はわかっている。
何とかして、何かの「シッポ」を掴もうとしているのだ。
飲酒運転で捕まりでもすれば、奴らの思うつぼだ。
その罪を「ABC」にリポートされれば、私の持っている
アルコールライセンスは剥奪されることにもなりかねない。
すなわち、私はビジネスを続けることが出来なくなってしまう。

私にも、レストランやバー関係の知り合いは多くいる。
仕事の用事や、情報交換、あるいは飲食なので、
それらの飲食店などを訪ねたりすると、
その帰り道は必ずと言っていいほど、待ち伏せしていたポリスカーや
覆面が、私の車を尾行する。

私がなかなかシッポを出さない(元々何もない)ことに、苛立ちを覚えたのか、
そのうち、何らかの因縁を付けて、私の車を止めるようになってきた。
勿論、私は飲酒運転もしなければ、いたって安全運転である。

彼らは、理由なしに私の車を止めることは出来ないので、
私を止めた後、私が聞きもしないのに、色々な理由を言って、探ってくる。
そもそも捜査状もないのに、特定の人間を待ち伏せしたり、尾行したり
すること自体が、違法なのだ。

奴らは、私が何者なのかをすでに知っているので、免許証の提示
などは求めては来ない。
私が飲酒をしていないことがわかると、そそくさと立ち去ろうとする。
私はそんな警官を引きとめ、名前とバッジナンバーを尋ねる。
すると、とたんに口を濁し始め、

「俺がお前を止めたのは、車窓にスモークが貼ってあるからだ」

「さっき、お前はストップサインをはみ出して車を止めた」

などと、訳のわからないことを言ってくる。

だったら、切符でも切ればいいようなものだが、切符は切らない。

一度だけ、切符を切られたが、それも真夜中に自分の家の前の細道で
隠れていたポリスカーにいきなりハイビームでピッタリと車をつけられ、
ポリスカーだと気付かずに私がスピードを上げた瞬間に
「スピード違反」というような、初歩的な罠に引っかかってしまった時
くらいなものである。
これなどは、完全な嫌がらせだ。

それらの違法追跡や嫌がらせが、私ひとりに対して行なわれているうちは良かった。
しかし、日が経つにつれ、それは仕事帰りの私の従業員や客(東洋人)
にまで及ぶようになってきた。

従業員の女の子などは、ポリスカーがライトを消して、家(アパート)の前まで
ソロソロとつけて来たと言って、気持悪がっていた。

客にしたって、そうである。
うちの店に来た帰りに、毎回のようにポリスにつけられたり、
止められたりすれば、足が遠のいてしまって当然だ。
実際に飲酒運転で検挙される客が日を負うごとに増えてきた。

確かに飲酒運転は違法には違いないので、たとえ検挙されたとしても、
それ自体には文句を言えない。
だが、隣りのイタリアンレストランや向かいのアメリカンバーの客に対しては、
そういったことはせず、うちの店だけを狙い撃ちにしているのだ。
しかも、止められる客は100% 東洋人なのである。

カリフォルニアの法律でも、飲ませた店自体を有罪にすることができるので、
それを狙っているに違いない。

その後は、バーだけでなく、レストランの営業中にも、
店の裏の駐車場や、店のまん前に、これ見よがしにポリスカーを何台も
駐車させたり、陰に隠れて従業員や客を張っていたりというようなことまで
するようになってきた。

004


こうなると、完璧な「営業妨害」である。

私は、弁護士のバーバラにそのことを伝え、
どうにかならないか、相談した。

バーバラは、ポリスによる違法捜査のちゃんとした証拠を掴むために、
もう少しだけ、ポリスを泳がして欲しいと私に言った。
ポリスがボロを出すまでは、あくまでも、内密に調査を進めたいらしい。

私は渋々それを了解した。


次のことが起こるまでは・・・・・

                            続く

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2008年1月27日 (日)

不撓不屈 (第5話) ハラスメント

私は現在、4人の弁護士にそれぞれ違う件で仕事を依頼している。
ビジネス上の弁護士や、個人的な問題を依頼している弁護士もいる。

著名な占い師にも指摘されたように、私の人生において
「弁護士」は欠かせないものらしい。
考えてみればこの30年間、何らかの用事で弁護士が
途切れた事がない。

離婚裁判においては、足掛け15年を要した。
当の弁護士にも他人事のように言われるが、
これは「ギネスブック」ものだそうだ・・・
それについてはまた、別の機会に是非皆に聞いて欲しい。


さて、今回のポリスの件で私が依頼した弁護士は、
元々は私の店の客でもある。
歳は50過ぎで、未だ独身という少し小太りしたおばさんだ。
名前は「バーバラ」と言う。

今回、彼女を選んだのには訳がある。
黒人で、しかも女だからだ。
このアメリカでは、歴史的にも性差別や人種差別には敏感である。
白人社会においては、この女黒人弁護士が特に警戒される。
彼女はハラスメント(差別)関係の問題には強いと聞いていた。

結果的にこの選択が良かったのかどうか、いまだに分からないが、
後にポリスが対抗して、私に差し向けてきた弁護士達のほとんどは、
ルーツ(先祖)に日本人がいるというだけのアメリカ人(白人)である。
彼らは、書類上では日系の名字を名乗っているが、
外見も中身も完璧なアメちゃんだ。

ポリス(市)は日系の名字を持つ弁護士を雇い、この事件が
人種差別によるものではないことをアピールする作戦らしい。


話を元に戻そう。

元旦の早朝、マネージャーの健二とママの明美と共に、
ポリスに連れられて行った3人の娘達を救う為に、警察署に乗り込んだ。
店から歩いて行ける場所にあるその警察署は、平屋だが立派な建物で、
どことなく西部劇に出てくる保安官がいる建物のようなデザインに
なっている。

我々は正面玄関から入っていったが、これまた西部劇のバンクにある
カウンターのような所に、インターホンが一台だけ置いてあって、
中には誰も見当たらない。
インターホン越しに、誰かと話しをさせるように交渉しても、
横着な担当者は、我々の前に姿を表すことさえしない。

「確保した連中は12時間後に出してやるから、出直して来い」

そう言って、インターホンの電源を切ってしまった。
天井からはビデオカメラだけが回っている。

本当にここは警察署なのだろうか・・・
壁には歴代の署長たちの写真が飾られている。
当然のように、全員が白人である。

結局、我々は門前払いを食らうカタチとなったため、
保釈金を払って出所させる機関を探し、連絡を取ったが、
いずれにしても、12時間後でないとどうにもならないらしい。
そのため我々は、きっちり12時間後に彼女達を迎えに行くことにした。

朝の8時頃に、やっと弁護士バーバラの携帯に連絡が取れ、
事情を話したが、彼女は現在州外にいるらしく、次の日に
会う約束を取った。

夕方になって留置所にいる彼女達を迎えに行った。
出てきた彼女達はぐったりしている。
空腹なようだったので、まずは食事をさせ、話をすることにした。


彼女達から聞いた留置所での出来事は、明らかに「ハラスメント」
であった。

署に連れて行かれた彼女達はまず、チーフを含む4人の警官によって
取調べを受けた。
身体検査と称して、3人もの男警官に身体中を探られた。
レイナに関しては、麻薬を隠し持っている可能性があると
因縁を付けられ、下着にまでその手は及んだ。

その後の取調べでは、店のことは勿論、私個人のこと、
そして、彼女達のプライベートなことまで質問された。

「あの店のボスは何者だ」

「お前に彼氏はいるのか」

「何年付き合ってるんだ」

「そのタトゥー(刺青)はどこで入れた」


彼女達は答える必要はないと、黙秘した。


取調べは2時間ほどで切り上げられたが、
留置所に入れられた彼女達はその後、
出所するまでの10時間、食事も水も与えられなかった。
まるで放置プレイだ。

ロサンゼルスと言っても、冬は寒い。
暖房設備のない独房部屋で長時間放置されるのは辛いものだ。
しかも、彼女達は仕事中にそのまま連れてこられた為、
着ている物は薄着のままだ。
電話の一本さえも、させてもらえなかった。

「寒い」と何度も訴えたらしいが、毛布の一枚もくれなかったと言う。

恵子は寒さと、この状況に耐えられず、嘔吐してしまった。
それを知った警官は、トイレから手拭用のペーパーを持ってきて
床に放り投げ、レイナと里美を呼び付け、2人に掃除をさせた。
他の警官達はコーヒーを飲みながら、鉄格子越しに彼女達の
その姿を見て笑っていた。

何度も言うが、彼女達は何も法を犯していないばかりではなく、
本来は「容疑者」でも「参考人」でもない者達である。


奴らのしていることは「ハラスメント」と言うよりは「虐待」である。


2年経った今現在、証人尋問が行なわれているが、
留置所内の出来事というのは、事実を証明することが困難である。

ポリス達がまったくのデタラメを言って、シラをつき通している以上、
当事者本人(彼女達)の証言は、あくまでもただの「供述」に過ぎず、
証拠としては、認められないのだ。

これらの警察施設や軍施設、あるいは戦地においてのアメリカ人による
「虐待」は、いたるところで頻繁に行なわれている。
男女、子供を問わず、レイプされることがほとんどだ。
たとえその場で殺されることはなくても、被害者達は釈放後に
自ら命を絶ったり、地域によっては宗教や思想上、事実を知ってしまった
自分の夫や家族に殺されてしまうケースも後を絶たない。
まれに内部の告発により、調査されることはあるが、
ほとんどの事件は抹消されてしまう。

それが、「現実」なのだ・・・


私は次の日、彼女達を連れてバーバラのオフィスに行った。

今考えれば、その時はまだバーバラ自身も、我々の話に
半信半疑であったのかもしれない。

私はすぐにでも奴らを訴える手続きを取るようバーバラに迫った。
連邦警察やFBI に調査を依頼するか、メディアを使う策も提案した。
しかし、そのどれもストップされた。


「まずは、証拠が必要です」

バーバラは静かにそう言った。

確かにそうかもしれない。
私は、はやる気持を抑えて、具体的にどうすればいいのかを聞いた。

バーバラはしばらく考えた後、ゆっくりと我々にこう言った。

「まず、貴方とバーテンダーのチケットについての裁判に出頭して、
事実(無実)を主張します。それと、拘束された3人の女の子については、
もう少し詳しく調査してみます。
あと、調査期間中に、これだけは皆さん守ってください」
  
  * 飲酒運転をはじめ、あらゆる罪を犯さないこと。
  * 警察(市)を訴えることを公言しないこと。
  * 今後、ポリスに何か質問されても、その場では答えず、
    すぐ私に連絡を入れること。また、ポリスに歯向かわないこと。
  * ポリスに何かされたら、警官の名前とバッジ番号を控えること。
  * 全ての記録を取ること。
  
バーバラはこれらの事項を我々に伝えると、私を別室に呼んだ。
別室ではバーバラの報酬についての話をまとめた後に
彼女は言った。

「私は、貴方達のことを疑っている訳ではないけど、
とにかく、証拠がなければ何もできないの。私に3ヶ月ちょうだい。
私なりに出来る限りの調査をしてみるわ・・・」


この時点では、まだ誰もポリスによる「さらなるゲーム」が続くことを
知る術はなかった・・・


                続く

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2007年12月23日 (日)

不撓不屈 (第4話) 冤罪

レイナと里美というのは、バーでカクテルウエイトレスとして
働いているスタッフだ。

その2人がポリスにさらわれたと聞いて、
私は一瞬、自分の耳を疑った。

しかし、すぐにどういうことか想像できた。

私と健二は、2階のバーにいるであろうポリス達に、
行動を阻止されるのを避けるため、事務所がある建物から直接
非常階段を降りて行き、1階の店の出入口から店の中に
入って行こうとした。

店はすでに数台のポリスカーによって包囲されている。

我々が店の中に入って行こうとすると、出入口のドアの前に
若い白人警官が見張りに立っていて、我々を引き止めた。

「この店は、もう閉店した! 帰りなさい!」

若い警官はそう言って、我々の進入を阻止しようとした。

私は、その警官に向かい

「俺達はこの店の者だ!  お前らのボスを呼んで来い!」

そう怒鳴りながら、健二と共に店の中に突入して行った。


レストランの中は悲惨な光景であった。

先週の時よりも多くの警官達が店内をうろついている。
1階に5人、2階に10人といったところだろうか・・・

客が全て帰った後だったことは幸いであった。

しかし、従業員には、またしても試練を与えてしまった。
うちのスタッフ達の数人が1階の床に並んで座らされている。

先週も見かけたあのグリズリー警官が、我々の存在に気付き、
警棒を片手に、私と健二のいるところへ近寄って来た。


私は、グリズリーに向かって、

「どういうことだ!  我々は何も違法なことはしていない筈だ!
今すぐ私の弁護士に連絡するから、きちんと説明しろ!」

そう言って、携帯に手をかけようとした途端、

「フリーズ!! (動くな!)
いいか、それ以上少しでも動けば、お前はこの場にいられなくなるぞ!」

グリズリーはそう言って、左手に持った警棒で私の喉元を押さえ、
右手を腰の拳銃にあてた。


「黙ってその場に座れ!  一歩でも動けば、すぐにワッパをかける」

馬鹿の一つ覚えのように、グリズリーはそう言うと
私と健二を待ち合い席である椅子に無理やり座らせた。


ドア付近にいた若い警官はその様子を見ながら、硬直している。
おそらく、このポリスクルーに配属された新人警官なのだろう。
このクルーのやり方に、まだ慣れていないようである・・・

グリズリーは、その新入り警官に

「こいつらを見張っておけ!」

そう言って私達を指差し、外に出て行った。


新入り警官は我々の側まで寄ってきて、
少し戸惑ったような顔をしながら小声で

「大丈夫か?」

と聞いてきた。

すかさず、健二が

「大丈夫なわけねーだろ!」

と言うと、その警官は黙ってしまった。


今現在、2階に誰が拘束されて残っているのか、
まったく状況が分からなかった。

少なくとも、1階に拘束されているスタッフの中には、
レイナも里美も見つけることは出来ない。
おそらく、すでに連行されて行ったのだろう。

2階へ続く階段の上の方から、バーのママである明美の声が響く。
なにやらポリス達に対してわめいているようだ。

すると、バーテンの和樹が手を後ろに回され、2人の警官と共に階段から
降りて来るのが見えた。

1階のダイニングを通り、出口に差し掛かった和樹を見ると、
手には手錠をはめられていた。

それを見た健二が、

「奴(和樹)がいったい何をしたって言うんだ!」

そう叫んだ。

その声に反応するかのように、先ほど出口から出て行ったはずの
グリズリーが戻ってきて、健二に向かい

「黙っていろと言った筈だ! お前もブタ箱に入りたいか!」

そう言って、手錠をかけられている和樹を外に引っ張り出した。


「いっ! 痛い! 何をするの!」

今度は階段の上からママの明美が、あのチーフポリスに
腕を掴まれながら降りてきた。

「こんなことをしてただで済むと思ってんの!
あなた達のしていることは不法なのよ!
たとえポリスだろうが、あなた達を訴えて逆にブタ箱に入れてやるわ!」

明美は必死に抵抗しながら、怒鳴りまくっている。


明美の言うように、奴らのやり方は正確に言うと「違法」である。
我々が犯罪を犯していいない上に、奴らの妨害をしていない以上、
何の説明もなく、ワッパを掛ける事も、身体に触れることも
法律では認められていない。

しかし、法を取り締まる筈の警察組織の執行官である奴らに
「正義」が存在しないこの状況では、我々の「真実」は無に等しい。


チーフポリスは明美を私の前まで連れて来て、

「この女を何とかしろ!  そうでないと、このアバズレも一緒に連れて行くぞ!
お前達にはまだ、この場所で確認したいことがあるから、まずはこの女を黙らせて、
3人共ここから動くな!」

そう言って私の顔をにらんだ。

私は明美に

「俺がこいつらと話をするから、とにかく今は口答えをするな」

そう言って明美を落ち着かせた。


次に階段を1人で下りてくる女性がいた。

恵子である。

恵子とは、ポリスにさらわれていったレイナのルームメイトで、
うちの従業員ではないが、今日はたまたまバーに遊びに来ていた。
彼女は今日、レイナと一緒に帰ることになっていたらしく、
レイナの仕事が終わるまで店内で待っているだけだったのだが、
結局彼女まで巻き込んでしまうことになってしまった。


階段から降りてくる彼女のすぐ後から2人の警官が付いて来ている。
1人はウドの大木のようなノッポと、もう1人は海坊主のような
スキンヘッドである。
2人の警官は彼女の後ろ姿を指差しながら、なにやらニタニタと
笑っている。


恵子は多少の酒を飲んでいたせいもあるが、レイナ達がポリスに
連れて行かれたことに対して、ショックを隠せない様子で、
少し足元がふらついているように見えた。

恵子が1階の客席に座り込もうとすると、彼女の後から付いて来た
警官の1人であるスキンヘッドが、

「早く外に出るんだ!」

そう言って、彼女の腕を掴み、また出口の方まで歩かせた。

そして、恵子は我々の前を通り過ぎ、出口を出た。


その時である。

出口のドア付近にいたチーフポリスが、大声で

「パブリックアルコール!」

と叫んだ。 

私は一瞬「しまった!」と思ったが、後の祭りである。

恵子は、いきなり4人のポリス達に囲まれ、腕を後ろに回された。

「キャー! 止めて!  お願いだから止めて!!!」

恵子は何がなんだか分からないままに、取り押さえられている。

「止めろー!!  彼女は何も抵抗してねーじゃねーか!!」

私は思わず叫んでいた。


スキンヘッドが恵子にワッパをかけた。

「どうして!! 何で!!・・・・・」

恵子はそう言いながら、ポリスカーの中に投げ込まれて行った。


明美もそれを見て、

「ふざくんなー! このくそポリスが!!」

と叫び、今にもポリスに飛び掛って行きそうだったが、
健二が必死に彼女の身体を抑えている。

酒が入っている恵子を無理やり外に連れ出し、
「パブリックアルコール」の罪で検挙するやり方は、
違法である上に、計画的であるのは明白だ。


グリズリーが私の元へやって来る。

奴は人差し指を私の鼻先に向け、

「次はお前の番だ!」

そう言って、人差し指を上にヒョコヒョコと折り曲げる仕草をして、
「おいでおいで」と私を外に出てくるように促した。


私が外に出ると、すぐに5人ほどの警官が輪のようになって
私を取り囲んだ。

その中のグリズリーが私に問いかけてきた。

「今日、何でこんなことになったか分かるか?」

私を取り囲んでいる他の警官達は、腕組をしながらニタニタと笑っている。
まるで、この状況を楽しんでいるかのようである。

5メートル先の方では、仕事をやり終えたというような満足顔の
警官達数人ががなにやら楽しそうに笑いながら話し合っている。

私は怒りが込み上げて来たと同時に、
「必ず、こいつらを公の場に引きずり出してやる」と心に誓った。


私は冷静を装い、

「レイナと里美の2人をどうしたんだ。  あの2人がいったい何をした?」

そう言うと、グリズリーは声のトーンをいきなり上げて

「俺が質問しているんだ!   まずは俺の質問に答えろ!
今日、なぜ、俺達が、ここに、いるか、分かるか!」

他の警官達はお互いに目を合わせながら、再びニヤついている。

私はひと言

「NO!」

と答えると、どこからかあのチーフポリスが割り込んできて、

「じゃあ、俺が教えてやる。
まず、さっき連行して行った2人のアバズレ女達だが、
2時になって俺達が店に入ろうとしたら、1人の女がドアに鍵をかけて
俺達の捜査を妨害した。
次に、俺達がドアを蹴り破ろうとしたら、もう1人の女がドアの鍵を開けた。
だから、2人とも公務執行妨害で検挙した」


「ちょっと待ってくれ!」

私は思わず、奴の言葉をさえぎった。

私はチーフポリスの言っている意味がよく理解出来なかったが、
冷静に状況を考えて、こう言った。

「ドアの鍵を閉めたのは、店をクローズしたからだ。
閉店後にドアをロックするのは当然だろ!
それに、なぜ鍵を開けてやった娘までもが執行妨害になる?」

チーフポリスは、

「ん? すぐに開けなかったからだ」

こいつらに何を言っても無駄だと悟った。

最初から、これは計画的な「冤罪」なのだから・・・

それにしても、こいつらの「目的」が良く分からない。
差別なのか、それとも奴らの言う「ゲーム」なのか・・・

次にグリズリーが口を切った。

「それにな、お前の店はこの町には必要ない。
俺達の仕事は、この町のクリーンナップだからな」

私はグリズリーの言うことを無視して、チーフポリスに
問いただした。

「だいたい、何の為の捜査なんだ」

チーフポリスは

「これはただのバーチェックだ。 そこで、たまたま犯罪者を見付けただけだ」

「犯罪者? いったい誰が犯罪を犯したんだ」

私がそう言うと、

「ん? お前と、あのバーテンダーだ」

チーフポリスがそう言って、目を向けた方を見ると、
バーテンの和樹が手錠を外された後の手首を擦っている
姿が見えた。

彼はワッパを外され、連行されていない。

結局、奴らが犯罪者と言う和樹と私の2人は連行されずに、
ドアの鍵を開け閉めしただけのレイナと里美、
それに、店内でただレイナを待っていただけの恵子の3人が
連れて行かれたのだ。
おそらく留置場に入れられている筈だ。

ポリスの言っていることも、やっていることも全てメチャクチャである。


チーフポリスは私に目線を戻し、

「お前達にいいものをやろう」

そう言って、あらかじめ用意されていたチケットに何やら書き込み、

「お前と、あのバーテンは2時以降に酒を出していた罪で、書類送検する。
明日、我々は「ABC」にレポートを出す。
おそらく、この店のライセンスは取り上げられて、営業停止になるかもな!」

そう言ってチケットを手渡された。
違法な時間帯にアルコールを販売していたという罪だ。


「ABC」とは、「アルコール・ビバレージ・コントロール」の略称であり、
酒類販売の監視機関である。
レストランにおいてこの機関のパワーは絶対であり、
ライセンスを取り上げられれば、酒を販売出来ないどころか、
店を営業することさえも不可能であろう。

もちろん、我々は2時以降に酒を販売していた事実はない。

私は、無駄だと分かってはいたが、チーフポリスに説明した。

「我々は、2時以降に酒をサーブした覚えはない。
だいたい、客は全て2時前に返した」

すると、チーフポリスはまたニヤけながら、

「だからなんだ! 俺の部下が見たと言ってるんだ。
ポリスが見たと言っているのに、やっていないと言う証拠があるのか?」

私は高ぶる気持を抑えながらも、何とかしてこの作り上げられた冤罪を
証明しなければならないと焦っていた。

今でこそ、店内には幾つかの隠しカメラが取り付けてあるが、
当時は何もなかった。
隠しカメラを取り付けた理由は、一般的に言う防犯ではない。
ポリスの不正を記録するためだ。

当時の奴らの行動を証明出来るのは、現場にいたスタッフの
「記憶」しかなかった。


店の出口から1人の警官が出て来た。
手にはビールの空き箱を抱えている。

「チーフ! いいものを見付けました」

そう言って、その箱の中をチーフポリスに見せた。
中には焼酎の「ジンロー」の空き瓶が3本ほど入っている。

「おお! そうか。 これで証拠も揃ったな!」

チーフポリスは満足そうな顔をして、私に向かい

「これでお前も終わりだな」

そう言って、引き上げて行こうとしている。


どうやら、「ジンロー」をハードリッカーか何かと勘違いしているようである。

アメリカの酒販売ライセンスは
「ビヤー&ワイン」と「ハードリッカー」に分かれている。
文字通り、ビールやワイン、日本酒などのソフトアルコールを販売できる
ライセンスと、その他アルコール度の高い酒(ハードリッカー)や
蒸留酒を販売できるものとが存在する。

当時、私の店はその「ビヤー&ワイン」のライセンスしか持っていなかったが、
そのライセンスで焼酎を販売することができるし、カクテルなども色々と工夫して、
大抵の客は満足させることが出来る。

違法な酒を売ることはしていない。

ポリスは何でもいいから、何とかして自分達の捜査を正当化できる
物的証拠が欲しかったのであろう。

そういえば、「ジンロー」のボトルにに似た「ウオッカ」だか「ジン」を
見たことがあるが、それだと思っているのだろう。

私はあえて何も言わなかった。

そして帰って行こうとするチーフポリスとグリズリーに

「あなた達の名前と、バッジナンバーを教えてください」

と、丁寧な言葉で言った。

私の頭の中で、このポリスクルーを仕切っているチーフとグリズリーの
2人に関しては、何らかの形で訴えるつもりでいた。

何もしていない従業員達を犯罪者扱いされたことは、
絶対に許せない。
しかも、これは計画的な冤罪である。
そして、人種差別である。

法律上、警官は自分の名前やインフォメーションを
我々市民に伝えなければならない義務がある。

私の質問に対して、2人の警官はお互いに顔を見合わせ、

「名前だ? 俺達の名前を聞いて何をするつもりだ」

そう言って、2人は再び私の元を離れ、コソコソと相談を始めた。


他のポリス達はポリスカーに戻り始めていた。

しばらくして、グリズリーがメモの切れ端のようなものを持って来て、
無言で私にそれを渡した。

そのメモには乱雑に10人程度の名前が走り書きされている。
汚い字であまり読み取れない。
しかも、バッジのナンバーもなければ、名字もない。

「マイク」「トム」「ジョージ」・・・などと書いてあるだけである。

私は、グリズリーに、

「あなたと、チーフの2人の名前を知りたいんだが・・・」

と言うと、グリズリーは不機嫌そうに、

「そこに書いてある」

とだけ言い残して、去って行こうとした。


私にはもう、これ以上まともにこいつらと話をするつもりはなかった。

それよりも、連れて行かれた娘達を、とにかく助け出さなければ
ならない。


ポリス達が帰って行く中、先ほどの新人警官が遅れて
彼らの後を追っていく。
彼は私の横を通り過ぎる瞬間、チラッと私の顔を見て、

「ソーリー・・・・」

と、聞こえるか聞こえないか程の小声でつぶやいていた。

ポリス達が去って言った後、私とマネージャーの健二、
そしてママの明美は、連行されていった娘達が
留置されているであろう警察署に乗り込むことにした。

残りのスタッフ達には家に帰るように伝えたのだが、
皆、一緒に付いて来たいと言って聞かない。
しかし、やはりこれ以上の危険を回避するために、
彼らを説得して、取り合えず皆を帰宅させることにした。


もう、東の空が少し明るくなりかけていた・・・・

とんだ「初日の出」を見ることになってしまった。


私は弁護士の携帯に何度も電話を入れたが、
まだ明け方で、しかも元旦ということもあり、
電話が繋がらない。
旅行にでも出かけているのかもしれない。
結局その日は、弁護士に連絡を取ることは出来なかった・・・

                 続く

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2007年12月 2日 (日)

不撓不屈 (第3話) 大晦日

あれから、ちょうど1週間が経った。
今日は大晦日である。

晦日も正月も、我々に休みはない。


クリスマスイブのことがあってから、
私はポリスに対しての不信感と警戒心を拭い去ることは出来なかった。
私だけではない。
この街のポリスは普段から横柄な上に、前回のバーチェックのやり方には、
居合わせた客や従業員達も納得してはいない。


大晦日であるこの日、私はダウンタウンにある店舗(ラーメン屋)での仕事を
終えてから、フリーウェイに乗り、バーのある街へ向かった。

時間はすでに午後11時を回っているが、年越し前には
なんとか店に着けそうである。

1人でフリーウェイを運転中に、
「気が付けばいつの間にか年を越していた」
なんてのはさすがに避けたいものである。


私はバーの状況が気になり、運転しながら店に電話を入れた。

「何も問題ありませんよ!」

バーテンダーが電話の向こうで叫んでいる。
BGMの音響と回りのざわめき具合で、だいたいの混み具合は分かる。

うちのバーで年を越そうと多くの若者達が集まって来ている様子だ。
今宵もクラブスタイルでの営業である。


念のため、私は事前に店の表に見張りを立たせて、
普段より慎重に客のIDチェック(未成年者の入店を断る為)と、
銃などの危険物所持の検査を行なうように指示していた。


私は、電話口の向こうにいるバーテンダーに

「そろそろ、客に"年越し蕎麦"を振る舞ってくれ!
それと、パーティークラッカーも忘れないようにな!」

そう言って携帯電話を切った。

「年越し蕎麦」を振る舞うと言っても、「わんこそば」のように一口サイズの
蕎麦を椀に入れて、来てくれた客にカタチだけでも食べてもらうといった
程度のものである。
もう、恒例になってしまった。
そして、クラッカーを各自に手渡して、カウントダウンと共に一斉に鳴らし、
年越しを祝うのである。

私ははフリーウェイを降りて店に着く前に、周囲を巡回した。
パトロールカーが出回っていないかのパトロールである。


何も問題はない。

むしろ、1台のポリスカーにも遭遇しない。

カウントダウンを控え、またどこかでたむろっているのだろう。


私はポリス達がいつもサボっている場所を2箇所ほど知っている。

1箇所は、学校地区にある公園の駐車場だ。
この公園は夜になると人はまず来ない。
駐車場は広く、公園の奥に位置するので、ひと目につくことはない。

私は数年前まで犬を飼っていた。
ある時、犬を公園に連れて行っておもいっきり
走らせてやろうと思い、深夜2時頃に犬を車に載せて、
その公園の駐車場の奥に入っていったことがあった。

すると、暗闇の中でライトを消し、横付けされている3台のポリスカーに
遭遇してしまった。
こんな夜中にこんな場所へ入り込んでしまった自分は、
どう考えても怪しい筈である。
私は完全に職質されると覚悟した・・・

が、そのポリスカー3台は私の車を見るなり、
まるでゴキブリが散って行くかの如く、逃げて行ったのである。

何も逃げていくことはないだろうに・・・

以来、私はその駐車場の中には入っていないが、
夜になって、公園の駐車場にソロソロと入っていくポリスカーを見かける度に
「また、サボってるな・・・」などと何気に思っていたのだ。


もうひとつの場所は、場末にある24時間営業の寂れたドーナツ屋だ。
ここも人通りが少ない所にあって、あまり目立たない店である。
裏の駐車場には大抵2台のボリスカーが横付けされていて、
そのポリスカーの中で、いつも警官がドーナツを食っている。

この店はポリスに無料でドーナツを提供しているのだ。
客がほとんどいなくて、ドーナツが余ってしまう事情もあるのだろうが、
アメリカでは、治安の悪い場所などの店で、こうして警官に
無料でフードやドリンクを出したりして、
ポリスの立ち寄る店として、強盗などの犯罪を抑制しようとする場合がある。

普通のレストランでも、ポリスには優遇する習慣があるようだが、
うちの店では、たとえ警官が客として来店したとしても
特別扱いをすることはない。

そういえば、保健所が来る度に持ち帰りのフードを持たせているという
レストランオーナーもいたっけ・・・

ロスの飲食店では、保健所が定期的にやって来て、検査官の採点により
「A」「B」「C」などのランク付けがされ、それを店の外に表示しなければ
ならない法律がある。
アメリカ人の客は、このランクを以外に気にするため、客の入りに
かなり影響してくる。
しかし、これらの採点自体は検査官によってまちまちである上、
ほとんどが検査官の気分次第だと言われている。


後に我々は、このヘルスデパートメント(保健所)にも
苦しめられる羽目に遭うのである・・・・・


他の街でのことだが、知り合いの経営しているクラブバーでは、
ポリスが「バーチェック」と称して定期的に「みかじめ」を催促しに来ると
ぼやいていた。
しかも、その度にいくらかの金を握らしていると言うのだ・・・
そのクラブバーのオーナーは、その方が結果的に安くつくと言う。

「ヤクザ」でもあるまいし、警官が一般市民から
「みかじめ」を徴収するなんて・・・


これも余談だが、数年前にうちのバーによく飲みに来ていたグループがいる。
リーダーらしき奴は、ハワイアンで、その他のメンツも白人、黒人、メキシコ系と
いつも決まったメンバーで、5~6人で飲みに来るのだが、とにかくよく飲む。
金払いもいいし、暴れ出すわけでもなかったので、うちにとっても上客だった。
ひとつ、疑問だったのが、彼らはどんなに飲んで酔っ払っても、
いつも決まった時間、11時30分になるとピタリと飲むのを止め、
そそくさと帰っていくのだ。
ある時、ママの明美が彼らに尋ねた。

「あなた達、いつも決まった時間に帰るけど、これから何かあるの?」

すると、そのうちの1人が

「実は俺達、隣町のポリスなんだ」

それを耳にしたハワイアンが

「シーッ!   
・・・・・・ 実は、その通りなんだけどさ・・・ まぁ、ここだけの話にしといてよ!」

などと、軽く言っている。

明美も、

「あら、そうなの? ハッハッハッ!  ・・・まぁ、何でもいいけど、誰か迎えにでも
来るの? みんな飲んでるから運転しちゃ駄目よ! それに・・・
この町のポリスはうるさいから」

と言って、彼らがポリスだということは、端から信じてはいなかった。

だが、酔っているせいもあるのか、先ほどの1人が、

「ホラッ!」

と言って警察手帳を明美に見せた。

「あら、よく出来てるわね・・・」

と、明美がその手帳を覗き込んでいると、
他の連中も皆、手帳を出し始めた。

明美は、何か悪い冗談か、嫌がらせか、あるいは本当にポリスで、
自分達に何かを仕掛けようとしているのかなどと、頭の中がかく乱した。


実際、彼らは隣町のポリスであった。

明美が聞いた話によると、彼らが飲みに来る日は、
実は毎回パトロール前で、なんと、全員12時からのシフトであるらしかった。

「そんなことして、捕まったり、見つかったりしたらどうするの? 大問題よ!」

と、明美が問い詰めると、

「ハッハッハッ! 大丈夫さ! 隣りの町まで行けば、その日のポリスは、
ここにいる俺達しかいないんだから・・・
それに、たとえこの町のポリスに止められたって、俺達がポリスだと判れば、
見逃すよ。奴らだってパトロール前には俺達の町で一杯引っ掛けてるんだからさ」

自分達の町では顔が割れるが、管轄外の町なら飲んでいても
顔が割れることはないので、こういったことは日常茶飯事だと言う・・・

信じがたい話であるが、本当の話である。


こんなことがまかり通っているこの国はやっぱり狂っている。


それにしても、うちのバーがあるこの街のポリスは、
さぞかし退屈だろう・・・

年に数回起こる交通事故の処理と、夫婦喧嘩の通報に
懸け付ける程度で、その他にはたいした事件もない。


以前に、たまたま警察署の車庫を覗いたことがあるが、
30台近くのボリスカーが眠っていた。

なぜこんな小さな町に、これだけ多くのポリスカーと警官が必要なのか
わからない。

税金の無駄遣いである。

だから、ドーナツばかり食っている警官が増えるのだ。


さて、そろそろ時間も押し迫ってきた。

客が蕎麦を食べ終えて、残り5分で年が明けるという頃、
BGMの音楽がフェードアウトしていき、店内にある3台のモニターには、
それぞれ違うテレビのチャンネルが写し出された。

各モニターには「ラスベガス」や「ハリウッド」などの様子が中継されている。
これらの場所では路上にぎっしりと人々がいて、一斉にカウントダウンを
待ち構えている。


先程までプレイヤーを回していたDJがマイクを手に取り、
皆にカウントダウンの準備を促す。

バーテンやカクテルウエイトレス達が、忙しくシャンペンを注ぎに客をまわり、
パーティークラッカーを全員に配り終えた・・・

「10(テン)・・・9(ナイン)・・・8(エイト)・・・   」

DJの掛け声と共に、客達も一斉にカウントを始めた。

「・・・3(スリー)・・・」

「・・・2(ツー)・・・」

「・・・1(ワン)・・・」

「パーン!! パーン!! パーン!!」

「ハッピーニューイヤー!!」 「明けましておめでとう!!」


70人ほどいた客が一斉にクラッカーを放ち、奇声と共に
側にいる客同士、そして従業員らと抱き合い、シャンパンで乾杯する。

なんとか、無事に年を越すことが出来た。

店内にはヒップホップとレゲエのミュージックが流れ出し、
客達は各々に楽しみ、踊り出す。

私はそれらの光景を横目に、隣の屋根裏部屋にある
事務所に行き、いつものように経理の仕事を片付けることにした。


バーの客席には1階のレストランのスタッフ達も遊びに来ていた。
レストランのマネージャーである健二が、
プレゼント代りにと家から持って来た焼酎のボトルを片手に
事務所にいる私のところに挨拶に来た。

「社長! 明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします」

彼はそう言うと、

「隣で従業員達と飲んでますんで、後で社長も来て下さい!」

そう言い残して、事務所を出て行こうとした。

私は彼を呼び止め、

「そういえば、先週のポリスのガサ入れのこともあるし、
うちは何の問題もないが、念のために
ラストコールとグラスアップの時間は厳守するように
ママに伝えといてくれ!」

そう言って、経理の仕事に戻った。


1時45分頃になると、音楽が鳴り止んだ。


私は2階にある事務所の窓から外を見下ろした。
客達がゾロゾロと店の外に出て行くのが見える。


バーのスタッフ達は片付けを始め、看板のネオンが消えた。


店内にはバーのスタッフとDJの他に、下のレストランのスタッフが
数人と、新年の挨拶をしに来ていた他の系列店のスタッフ、
それと酒を飲んだカクテルウエイトレスの女の子を迎えに来た
友達が残っている。


私はまだ事務所の机に向かっていたのだが、
せめて残っている従業員達に声を掛けてあげようと、
机の上の書類を片付け始めた。


すると、

「ドカドカドカドカ!」

と、壁伝えに足音のような音が響いて来た。

嫌な予感がした・・・・

そして、予感は的中した。


私の事務所のドアが凄いいきよいで開けられ、
1階のレストランマネージャーである健二が血相を変えて飛び込んで来た。

「社長!! 大変です!
レイナと里美が!   レイナと里美の2人が・・・ マッポにさらわれました!」

健二は震えた声で、しかし大声でそう言った。

                 続く

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2007年10月26日 (金)

不撓不屈 (第2話) クリスマスの夜

あれは2年前のクリスマスイブの夜。

我々はいつものようにバーを営業していた。

アメリカでクリスマスといったら1年で1番のイベントであり、
家で家族や恋人と過ごす時でもある。

こんな田舎町では、日本のように街に人が溢れることはない。
レストランも、バーも、スーパーマーケットさえも
みな、家族や恋人と時間を過ごすために閉店してしまう。

もちろん、若者をはじめ、外で遊びたい人間もいるし、
仲間と集まってパーティーをする連中もいる。

この日にオープンしている店は、
開いている店を求めてやってくる客で忙しい。

私の店も、またそういった客達で賑わっていた。

016


こんな時に夜中中働いているのは、我々みたいな人間と・・・

そう・・・

ポリスくらいなものである。


元々、たいした事件もないこの田舎町で、
人っ子ひとり歩いていないこんな日に何もあるはずはない。


今晩のシフトに当たったポリスクルーは、恋人や家族とも一緒にいれず、
さぞかし退屈だろう・・・


この店は1階がレストランで夜の10時には閉まるのだが、
そこのダイニングから2階に続く階段があり、
それを上るとカラオケバーになっている。
2階のバーは夜の9時から夜中の2時までオープンしている。

そして、その2階にあるバーの奥から、また1つ扉を開けた隣の建物に
わたしの事務所と倉庫、そして、コンピュータールームがあるという
かなり複雑な作りになっている。

コンピュータールームと言うと何か近代的な部屋を想像してしまうが、
6畳くらいの屋根裏部屋にコンピューターが3台と
仮眠用のベッド、それに人ひとりがやっと入れるほどの
狭いシャワースペースがある。
我々が勝手に「コンピュータールーム」と呼んでいるだけのことだ。


確かに怪しい部屋ではある・・・


普段、この部屋では「ジョージ」というアメリカ人の従業員が
1人で仕事をしている。
当時50人いた従業員の中で、唯一の白人だ。
彼は家庭の事情もあり、現在この部屋に住んでいる。

彼の仕事内容は、ケータリングの一環として
寿司を毎朝ホテルに配達する仕事(トラックドライバー)の他に、
店のホームページの更新やインボイスなどの書類を作成するなど、
コンピューターを使う業務だ。
どちらかといえば「オタク系」なのだが、
PC関係には詳しいし、信用できるので重宝している。


その日は、従業員の女の子とその友達が
PC関連のことでジョージに聞きたいことがあるとかで
彼のいる部屋(コンピューター室)に遊びに来ていた。


夜中の1時くらいだったと思う。


駐車場も、うちの店に来ている客の車以外にはない。

ストリートには1台の車も走っていない。

店の外は寂しいくらいに静かだった。

私はいつものように、事務所の机でオフィスワークをしていた。

壁づたえにあるバーからはヒップホップのBGMの音が漏れて
聞こえてくる。

今日はクリスマスイブパーティーということで、
DJがプレイヤーを回し、クラブスタイルで営業している。

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突然

「キャー!」

という黄色い悲鳴と共に女の子が2人、私のいる事務所に
飛び込んできた。
先ほどコンピュータールームにいた2人である。

「どうした!」

私はその2人に聞いた。

「誰かが・・・外からドアを・・・・」

2人は怯えていて、ほとんど言葉になっていない。

私は取り合えず2人を事務所に残し、急いで事務所を出ると、
コンピュータールームの外側(屋上)から裏口のドアが蹴り破られ、
屋根裏沿いに6~7人のポリス達が入り込んで来た。

コンピュータールームにいたジョージが
1人のポリスに羽交い絞めにされているのが見えた。


ポリス達はそのままドカドカと、バーのある部屋に
入って行こうとしていた。


私は1人のポリスを止め、何事かを聞いたが、
そのまま拘束され、逆に

「お前は何者だ!」

と聞かれた。

「私は、ここのオーナーだ」

と言うと、

「後で聞きたいことがあるから、ここを動くな!」

と言って、他のボリス達が隣のバーの部屋に入った後、
バーに入るドアの前に立ち塞がった。


私は10代の頃、日本で何度となく日本警察とは、
やりあったことがあるが、
アメリカのポリスは抵抗すれば、有無を言わさず、その場で御用である。

それに関して意義はない。
日本の警察は確かに甘いが、アメリカでは相手が銃を持っている
場合があるため、銃弾を浴びて殉職するケースが多い。
そのため、抵抗する素振りをするだけでも、ポリスに撃ち殺されて
しまう場合もある。

「正当防衛」で済まされてしまうのである。


しかし、この場合は事情がまったく違う。

私達は何もしていないのだから・・・

バーの裏口ドアに立ち塞がっていた見張りの警官が、
バーのある部屋に入っていった隙を見て、私は非常階段で一旦外に出て、
1階の入り口から店に入っていった。


ポリスが潜入して来たのは、屋根裏からだけではなかった。

そこには1階と2階を合わせて、総勢10人以上のポリス達がいた。
気が付けば裏も表も、赤灯を回したポリスカーが何台も停まっている。

挟み撃ちだったのだ。

しかし、我々は誰も逃げる必要などない。


ポリス達は何かを探しているようだった。

多分、「ガセネタ」を掴まされたのだろう。

「ドラッグパーティー」でもやってると思ったのだろうか・・・

ポリス達は、客がいるにも関わらず、店内をうろつき、
客の飲んでいるグラスを奪い取り、匂いを嗅ぐ。

これには、客の方が切れた。

「俺達が楽しんでいるのに、いきなり何をするんだ!」

1人の客がそう言ったと同時に、彼は数人の警官に囲まれ、
無理やり連行されて行ってしまった。

こんな状態で営業など続けられるわけがない。

私は、音楽を止めさせ、ライトアップした。


一瞬、店内は静まりかえり、
バーの「ママ」である明美が、ポリスの1人に食い付いていった。

「あなた達、お客さんがまだいるのに、こんな方法でガサ入れを
するのは、許しません! 調べたいことがあるなら、裏でオーナーと共に
話を聞きます。店内を調べたいなら、客が帰ってからにしてください!」

彼女が話し終わるか終わらないうちに、もう1人の警官が

「黙れ! このアバズレ! それ以上喋ると留置場へぶち込むぞ!」

それを聞いた明美は、今にもポリスに飛び掛って行きそうだったが、
回りにいた従業員や客達が、必死で彼女の身体を押さえている。

「3秒以内に黙ってその場に座らなければ、ワッパをかける!」

ポリスはママである明美にそう言うと、

「ワン、ツー・・・」

と数を数え始めた。

回りの者達は、

「ママ!   取り合えず座って!」

と言いながら、その場に座らせた。


私は、そのポリスのもとへ駆け寄り

「お前達は、何のためのガサなのかを私に説明する義務がある。
もし、正当な理由がないのなら、これは明らかな不法捜査だ!」

私がそう言ったと同時に、そのポリスクルーのチーフらしき奴が、
横から入って来て私に言った。

「お前達にそんなことを言う権利はない。
これ以上、我々に楯突くと、この場でお前を検挙する」


私だけではない。
ポリス以外のここにいる者達は、いったい今何が起こっているのか
まったく分からない状態であった。

そして、そのチーフボリスは、客を選別しだしたのである。

「お前は残れ!」

「ここに座って動くな!」

そう言って、30人ほどいた客の約半数を、無理やり座らせた。


「貴方は帰っていい」

と言って帰らせる客もいる。
しかも、帰らせる客には

「メリークリスマス・・・気を付けて帰りなさい」

などと言っているのである。


客も我々もその時点では、まったく意味が分からなかった。

しかし、すぐにそれがどうしてなのか気が付いた。


最終的に残された客は全て、
日本人を含む東洋人ばかりであったからだ。

その後、残された客と従業員はひとりひとりが身分証明書(免許証)を
提示させられ、色々と職質されている。

「ドラッグや銃を持っていないか?」
「ここは2時以降に酒(アルコール)を出してないか?」
「この店で、非合法なものを販売していないか?」
「この店で、売春行為はないか?」

そういった質問だったようである。
中には、身体検査や車の中まで調べられている者もいる。

確かにうちに来る客の中にはギャングメンバーも多くいるが、
みな、この店ではドラッグは勿論、たとえ「草」であっても、
ご法度だという事は知っていて、持ち込む奴はいない。
普段から銃を持ち歩く奴もいるが、
この店には絶対に持ち込ませない。


ポリスどもは店のライセンスや酒類を隅々まで調べ、
倉庫やバーの中も調べていた。


事務所に残した2人の女の子も、
「逃げようとしていた」
と言われ、取調べを受けている。

いきなり外から凄い勢いで、誰かがドアを蹴り破ろうとしていたら、
普通、逃げるだろう。
可哀相に彼女達はパニック状態で身体が震えている。

アメリカでは「バーチェック」といって、ポリスが
バーを巡回する行為そのものは認められている。

だが、今回のバーチェックは、巡回と言うにはかなり無理がある。
というよりも、明らかに違法捜査である。

しかし、私はこの日の出来事だけであったら
起訴にまでは持っていかなかったかもしれない。
もちろん奴らのやり方は違法であるし、納得は出来ない。
だが、この日のガサ入れだけでポリスを敵にするのは
リスクが大きすぎるし、相手が相手だけに起訴をするには弱すぎる。

百歩譲って、今日の「がさ入れ」が誰かのガセネタの垂れ込みによって、
警察の正義感と使命で行なったものだと考えても、
これから後に奴らが我々にしたことは、
法的にも、道徳的にも許せないことである。

結局、ポリスにしてみれば、その日は不発に終わったようだ。


ほとんどの客は帰っていった。

もう、時間は午前4時を回っている。

私は今日居合わせた客に、本当に申し訳ない気持で一杯だった。
従業員にも嫌な思いをさせてしまった。

彼らにとっても、今日は「クリスマスイブ」なのだから・・・・

私はこのクルーのボスであるチーフポリスともう1人の
グリズリーのような体型をしている白人ポリスの2人に
店の外へ連れ出された。

考えてみれば、このポリスクルーは全員が白人である。


私が何故、わざわざ外に連れ出されたのかも、想像が付く。
もし、私が酒を飲んでいたら、店の外に出た途端に
「パブリックアルコール」
すなわち、公共の場で酔っ払っていたという罪で私をしょっ引くことが出来るからだ。
店内ではそれが適用されない。

その2人の警官は、私に酒を飲んでいたかをしつこく聞いている。

あいにくその日は、私は事務の仕事を片付けていたので、
アルコールは飲んでいない。

いくつかの尋問をされた後、私はもう一度、
今日の捜査の理由を求めた。

2人のポリスは、私から少し離れ、なにやらコソコソと相談を始めた。
4~5分した後に、2人は私に近づいて来て言った。

「お前の店は、ギャングの溜まり場になっている。
お前が不法なものを売っていることも知っているし、
2時以降に酒を出していることも知っている。
賭博や売春斡旋の容疑もある。
我々の調べでは、お前はジャパニーズマフィアで
この店はブラックリストにも載っている」

私は否定した。


それらの事実はない。

法律では午前2時以降に酒類を販売することは出来ない。
客の中には閉店時刻近くになっても、まだ飲み足りないと
ダダをこねる奴もいるが、2時前にはきっちりとグラスを
取り上げる。

ギャングメンバーだろうが、マフィアであろうが、
私の店に来る客は、かたくなにこの店の掟(ルール)を
守ってくれている。
むしろ、よそ者が来て何か問題を仕掛けて来ようものなら、
すかさず、それを阻止するほどである。


私はポリスが、誰かの嘘の垂れ込みによって、
今回の捜査に入ったのだと、その時は思い込んでいた。


しかし、それらは全て、そのクルー達の「でっち上げ」だと
いうことを後から知ることになる。


チーフポリスは、私に言った。

「いいか、お前達の言うことなど、誰も信じやしない。
こんな店ひとつ、俺達のひと言で簡単に潰れちまうんだぞ!」


私は、ここに会話の全てを日本語で書いているが、
実際はこんな綺麗な言葉ではない。
私には、たいした英語の理解力はないが、
奴らが汚い言葉で、我々に何を言っているかくらいは分かる。

このチーフポリスは、最後に私を指差し、
半分ニヤけた顔でこう言ったのである。

「これから面白いゲームが始まるから、覚悟しとけよ・・・」


                続く

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2007年10月22日 (月)

不撓不屈 (第1話) ポリスパワー

日本(広島)で、米兵4人による集団強姦事件が、またしても発覚した。
被害者は19歳の少女である。

今回の事件も、「日米地位協定」という壁のために、
米側によって、うやもやにされてしまう可能性がある。


「これらの事件は、絶対に許してはならない」


犯人達は「海兵隊員」であるが、写真などが公表されることは
滅多にないので、日本でニュースを知った人達も、
つい「白人」を連想してしまいがちだが、
この手の強姦事件の容疑者は、ほぼ「黒人」である。

そろそろ日本人達(特に政治家)は、米国になめられっぱなしの
この状況を変えていかなければいけないだろう。


ところで、以前に少し触れたのだが、
現在、私は自分の店のひとつがある市(シティ)の
警察組織(ポリス)と対立状態にある。

きっかけは2年前のクリスマスの夜にさかのぼるが、
その裁判のための正式な事情聴取が明日から始まる。

これまでの2年間は地元警察(シティポリス)からの妨害を受けながらも、
私は弁護士を通し、独自に調査を続けて来た。

「ポリスと対立している」などと書くと、まるで私が何か悪いことでも
しているように聞こえるが、そう思われては困るので
事情を少し記しておこうと思う。

その前に、理解を深めるためにはまず、米国における警察組織の
「仕組み」を簡単に説明する必要がある。


米国では、日本の警察のような「法執行機関」が数多く存在し、
それぞれが独立した権限を持って活動するという非常に複雑な
システムになっている。

米国内での警察組織を大きく分けると、
FBI (連邦捜査局)やマーシャル(保安局)といった連邦機関の他に、
各自治体が運営する「州警察」、「郡警察」、「市警察」、「シェリフ」、
「ハイウェイパトロール」・・・などがある。
組織名を細かく挙げたら切りがないほどの機関が存在する。
そうした機関は全米で約2万あると言われているが、
当の法執行官でさえ、把握出来ていないのが実情なのだ。


Policebaga50


日本では考えられないような組織にも警察権が与えられている。
それらのポリスカーや制服、階級、装備、設備、武器などは
全てが独自のものを使用し、連邦法の下において
独自の法制度で行政にあたるのである。

我々の税金を使って「ドラッグポリスカー」だって作ってしまうのだ。
もう、やりたい放題である。


002

たとえば、同じ市内であっても、いくつもの警察組織(ポリスカー)
が行きかい、互いが互いの活動を把握出来ていないため、
ポリス同士が「あいつら、どこのポリスだ?」といった具合である。

「おとり捜査」は頻繁に行なわれているが、そんな捜査官が
他の警察組織に拘束されたり、射殺されたりする事件も
実際にあるのだ。

警察組織そのものが、地元の有力者(ボス)や犯罪組織と癒着
していることもあれば、
「ミイラ取りがミイラになる」ごとく、
おとりで潜入した組織の方が居心地(条件)がよくて、
そのまま組織に居座ってしまう捜査官もいる。

ポリスの不法行為を、たとえ他の警察機関に垂れ込んだところで、
警察同士が互いに弱みを持っている、と言うよりも「持ちつ持たれつ」の
関係があるために、事実が抹消されてしまうこともよくある。


今、日本でも警察内部の腐敗が取り沙汰されているが、
アメリカのポリスに比べたら可愛いものである。


何故、米国の警察組織はこのような複雑な仕組みになっているのか。

元々は、多くの警察組織を作る事によって、互いにけん制し合い、
腐敗を防止させることが目的だと謳っているが、
実際はポリス自体に信用がなく、絶対的な権力を持たせないための
政策であったと思われる。
それと共に歴史的に地方分権の国であるために、
気が付いたらこういったシステムになってしまったと言った方がいい。


だが、こんな警察制度がまともに機能する筈がない。


これは、我々市民にとって、本当に恐ろしいことなのだ。

地方自治体(ポリスのオーナー)のために存在する「ポリス」は
いわゆる「ポリスパワー」によって、信じられないような
強権的な行動が合法に出来てしまうのである。

私の店(バー)があるロス郊外のこのシティーポリスも
そうした警察組織のひとつだ。

このシティは昔から保守的な所で、
市の職員(ポリスマン、消防隊員)は、ほとんどが「白人」であり、
K.K.K.(白人至上主義団体)の支部が存在する場所でもあるため、
目には見えない人種差別がいまだに根付いているのだ。

数年前には、市長が、あるシンジケートとの癒着問題を
テレビ局の調査によって暴かれ、問題にされたこともある。

私がシティポリスを敵に回したということは、
このポリスの「最高責任者」である「市長」を敵にしてしまった
ことになる。
「公共の利益のため」と言えば、市民の土地や利用権さえも
没収出来る権限を持っている市長からすれば、
私の店1件を潰すことなど、朝飯前である・・・・・


           はずだった。


しかし、私はこの腐ったアメリカの「都市国家権力」と
とことん戦う覚悟を決めたのだ。

それは、店や従業員達を守るために、避けて通ってはならない
ことだと判断したからである。


もしかしたら、本当に潰されてしまうかもしれない・・・


正直のところ、私は度重なる警察やその他の機関からの
重圧で、このアメリカでビジネスをしていく気力を失いかけていた。
いっそのこと、全てを清算して日本に帰ろうかと本気で
考えていた時期もあったのだ。

そんな時には、この15年の間に守り続けてきた店での出来事や
従業員、客達の顔が走馬灯のように想い浮かぶのである。

今は私の持っている店はここだけではない。
わたしの気持だけで、店を潰すわけにはいかないのだ。

そして「正義」を貫くためにも、諦めるわけにはいかない。


こうして、私はシティポリスと市を相手取って、
起訴に踏み切ることにした。

裁判が終わるまではあまり詳細には書けないが、
こうしたアメリカでの警察事情を理解してもらった上で
実際に起こったことを簡単に記しておこう。

でも、今日はここまで・・・・

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